5.私の決意
あの日から数ヶ月経った。
部屋に引き篭もるだけの私の人生は一変した。
アキと一緒に起きて、朝ごはんを食べる。
出かけるアキを、あの部屋から見送る。
夕方に帰ってきたアキに抱きついて、手を繋ぎながら一緒に家の中を歩く。
そしてアキとご飯を食べた後、今だに緊張してどうにかなってしまいそうだけど、一緒にお風呂に入る。
一緒に楽しい話をしながら一緒に眠る。
本当に、本当に楽しい毎日。
その中でも1人でいる時間は寂しかったが、この時間でいろんなことを学んだ。
一般的な常識はあまり一回目の世界と変わらない。
気になった点は大きく二つ。
まずはこの国の歴史。
この国には千年以上のの歴史があり、代々王位継承権を与えられた人が争って王を決めてきた。
王位継承権の順位はただの順番で大した意味はない。
最終的には現在の王様が後継者を指名するらしい。
このことについては疑問ばかりだった。
なぜこの方法で国が成立してきたのか全くわからない。
こんなめちゃくちゃな方法で国のトップを決めたら、普通は国が崩壊しそうなものだが。
アキに聞いてみたが、
「王様は強いからね。いつか会えたらわかるよ」
と答えになってない答えが返ってきた。
そしてもう一つは、最近のこの国の状況。
10年ほど前から魔物の脅威が増えていて、それを倒すために特別な力を持った人達が対処してること。
それはアキのやるべきことの一つで、多くの魔物を犠牲者をほとんど出さずに討伐している。
そのことを王様から大きく評価されていて、現在1番王に近いと言われているのが、これから私が協力していくことになる王位継承権 第五位 シキ様がまとめる陣営らしい。
魔物を倒すなら、私は最高の人材だと自分でも思う。
実際にやった経験もある。
でも今の私にそれは無理な話。
アキと手を繋いでないと、この部屋の外にすら出れない。
アキを手を繋いでいても太陽の下に出れない。
感情は制御不能で魔法が暴発する。
知れば知るほど、自分がなぜアキから必要とされたのかという疑問が湧いてくる。
現状は引き篭もりの危険なメンヘラ女だ。
懐に置いておくにはあまりにも危険で面倒な存在。
アキに私をなぜ必要としてくれたのか聞いたところ、
「うーむ………… 実は私を守る騎士様が欲しかったんだよ! ハルにはピッタリの役割でしょ?」
完全にはぐらかされた。
アキの力があればそんなものは要らないはず。
そもそも家で引き篭もるナイトなんて笑える冗談だ。
多分、アキは何かを隠してる。
でも、これ以上考えても意味はない。
私はアキについていく以外の選択肢を捨てたから。
だからもう詮索は辞めた。
◇
私は今日まで学んだことから、とりあえず目標を決めた。
それを夕食後のお風呂で、アキに伝える。
「それで? ハルの目標を聞こうじゃない」
私は顔を真っ赤にして、ちょっと噛みながらこう宣言した。
「こ、この家を、アキと手を繋ぎながら外に出る」
「…………いいじゃん、それ……! 最高だよハル!!!」
アキにお風呂で抱きつかれる。
ただでさえ緊張していたのに、興奮で気持ちがぐちゃぐちゃになる。
こんな状況なのに魔法は発動しない。
そうか、アキに抱きつかれているからだ。
そんなことを考えていた私はぶっ倒れた。