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4.これからのこと


「ほら! キビキビ歩く!」


「ま、待ってよアキ…………」


 今日、この日に私の人生は変わった。


 泣きじゃくり、それを宥めるアキ。

 落ち着いた後、私は正直に話した。

 

 外が怖いこと。

 人が怖いこと。

 また誰かに傷つけられるのも、誰かを傷つけるのも本当に怖い。

 そう言ったら彼女は、


「じゃあ、家の中から始めよう!」


 そう言って、アキは私の手をひいた。

 私は気づけば、4年間出ることなく、また二度と出れるとも思っていなかった暗い部屋から飛び出していた。

 

 そして家の中を、私の手を引きながら連れ回す。

 なぜか私よりもこの家に詳しいアキはこの大きい家の間取りを説明していく。

 それにしても、これは恋人繋ぎというのだろうか。

 一回目でも経験したことなかったそれは、私を絶対に離さないって言ってくれているみたいで嬉しかった。

 今の私はこの手がなければ私は部屋の外を歩けない。

 アキもそれをわかってくれているのだと思う。

 一生、このままでいたいって本気でそう思った。


 ◇


 「まずはこれからどうするのか決めなきゃだね」


 一通り家を探索した後、私の部屋でアキはそう言った。


「とりあえず、難しいことは置いておくとして、ハルが必ず守らなきゃならないルールがあります!」


「な、なに? それ…… 」


 私は問う。


「まずは朝と夜は一緒にご飯食べること!」

「そして夜は一緒のベットでお話しながら寝ること!」

「とりあえず、今思いつくのはこれくらいかな」


 正直、思ったより少ないなって思った。

 もっと、とんでもないルールがあるのかと身構えたのがバカらしい。


「い、意外と少ないね……」


 私は思ったことをそのまま伝える。


「私が思いついたら、その度に追加するから」


「え…………?」


「そりゃそうでしょ」

 

 普通でしょ?といった顔でアキは言う。

 

「私もハルに与えるけど、ハルも私に何かちょうだい! それはこの一歩目!」

 

 そう言うアキはなぜか輝いて見える。

 この短時間で私も随分とアキに絆されたらしい。

 

「私はわがままなの。 最初に伝えたでしょ?」


 そう言ったアキはとても可愛かった。


「そして愛しのハルに伝えなくてはならないことがあります!」

 

「今度はなに……?」

 

 また軽いお願いだと思い、素直に問いかけた私。

 それは、

 

「私は基本的に夕方くらいまで、この家にはいません!」


 死刑宣告だった。

 思ったこと全てが口から出る。


「なんで? なんで? なんで? なんで?なんで? 一緒にいるって言ったよね? 一緒に歩いていくって約束したよね? 手を離さないってアキは誓ったよね? 嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき……」


 アキのことになると感情が暴走して抑えられず、刻印が光る。

 頭では理解してる。

 でも感情が全く制御できなかった。

 この気持ち悪さに耐えきれず、思ったことが全て出てきてしまう。


「お、落ち着いてハル……」


 私の手を握って落ち着かせるアキ。


「やらなきゃいけないことがあるの」

 

「それは私より大切なの……………………?」

 

「この生活を続けていくためにも、私達の夢を叶えるためにも必要なことなの……」

「ハルにも手伝ってほしいけど、まだ無理でしょ?」


「そ、それは……」


 できるとは言えなかった。

 外に出て何かをするなんて、今の私に到底できるとは思えない。


「まだ納得できてない思うから、少しだけ説明させて?」


「うん……」


 不満が顔に出ていたのかもしれない。

 とりあえず話を聞こうとそう決めた。


「さっき言ったけど、私にはこの国の王位継承権を与えられてる。この国は血ではなく能力で王を決めてきた。だから特別な力を持ってる私には王になる資格が与えられてる」

 

 初めて聞く話だ。

 辺境の村育ちの私は、王都の話なんて全く知らなかった。

 

「ハルは表舞台に出てくる前に引き篭もっちゃったから、まだ正式に与えられてないけど、継承権を与えられてしまうはず」


 私が王様? 人を傷つけることしか脳のない私が? 笑えない冗談だ。


「そうしたら、ハルと私の関係は敵だって世間ではみられてしまうかもしれない」


「嫌だ!!!!」

 

 反射的に叫んでしまった。

 

「そんなの絶対にダメ! 私どうすれば……アキと離れてしまうならいっそ…………」


 私はまた酷い醜態をアキの前で晒す。

 頭ではわかってる。

 こんなのおかしいってことぐらい、誰かに言われなくても知ってる。

 記憶を持ってる私は、大人のつもりだった。

 でも、そうじゃないっていうことを嫌というほど、知る一日になってしまった。

 心を押さえ込むブレーキが機能しない。

 思ったこと全てが言葉と魔法になって外に放出される。

 私の心は外見相応の、いやそれ以下の子供になってしまったと思い知らされる。


「落ち着いてハル」


 さっきの戯けたような感じとは全く違う、真剣な顔で私の手を握るアキ。


「そうならないために、やらなきゃいけないことがある」

 

「なにをするの…………?」

 

「昔から私を助けてくれた人を王様にするために、その人の力になる。私はその人に恩を返したいし、その人は王様になりたい。私にとってはいいことしかない」

 

 アキにとって恩人なら、私にとっても恩人だ。

 

「私には王様なんて無理だよ。ハルを幸せにすることで手一杯だからね!」


 こんなにも私を思ってくれる。

 

「一緒にその人を王様にして、幸せに暮らそう? だから今は我慢して?」

 

 その話を聞いて、自分のことしか考えていない私が恥ずかしくなった。

 

「そしてハルにも手を貸してほしい。少しずつ、ゆっくりでいいから…………」

「これはルールじゃなくてお願い」


 アキに貰ったものを返すチャンスが早速舞い込んでくる。

 だから答えは一つしかない。


「わかった…………」


「よし!いい子だね!」

 

 はじけるような笑顔。アキはやっぱり笑顔が似合う。

 

「こっちきて、今日はここまでにしよう? 疲れたね。ほら、一緒に寝よう?」


 私達は手を繋いで一緒に楽しい話をして、気づいたらぐっすり眠っていた。

 こんな気持ちで眠れたのは、本当に久しぶりで気持ちよかった。

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