45.感謝
「フユ、今日は出かけるよ」
「……!」
この娘は本当にわかりやすい。
考えていること、思っていることがすぐに表情に出る。
そしてすぐ嬉しいと感じていることを隠す。
それで隠しているつもりなのかと思う。
それぐらい何もかもがわかりやすい。
「どこに連れてってくれるの?」
「フユの好きなところに連れてって」
「付き合ってくれるの?!」
ほら隠せてないよ。
「うん」
こうやって出かけるのは楽しい。
私を知らないフユの前では戻れているような気がする。
それに何を感じているのか、何が好きなのか知りたい。
フユのことをもっと知りたい。
あの人もこう思ってたのかな?
私はそれ以上考えることをやめる。
そうじゃないだろって言い聞かせる。
もうずっと昔の話。
そんなことを考えたって仕方ない。
「今日はどこに連れてってくれるのかな?」
「えっとね〜……」
私にとって重要なのは過去じゃない。
今の大切を護るって決めたはず。
私は何も失ってないはず。
そのために人であることすら捨てたんだから。
◇
ひと通り楽しんだ後、次の目的地に向かう途中、歩いていたフユが立ち止まった。
「……? どうしたの?」
「ハル、無理してない?」
純粋に驚いた。
そんな素ぶりは見せてないはずだった。
私はあの時のままのはず。
成長なんてしてない。
そう言い聞かせてきた。
それでも気づくんだね。
「……してないよ。何で?」
「表情が日に日に暗くなっていく気がする」
わかるんだね。
私のことを余程見ているんだと感心した。
「お仕事も最近はすごく多くなってきた気がする」
知らないはずなのに、気づいてしまうんだね。
あのことは知らないはず。
それでもフユにはわかってしまうんだろう。
だからフユ、私は君にしたんだ。
それを思い知らされる。
本当は誰でもよかったはずだったのにね。
「そう? 相手をしてあげられなくてごめんね、フユ」
「謝らないで」
「大丈夫。フユが心配することなんて何もないよ。私があなたを護るから」
今の大切はあなた。
護るためなら何でもする。
成し遂げてみせる。
「……うん」
今の私はここを侵されたらどうなるかわからない。
外れてしまった私がどういうことをしてしまうのか。
それは私にだってわからない。
「ならもっと楽しもう? お詫びに今日をフユにあげる!」
私はできるだけ明るく言う。
「……うん!」
なぜだろう。
この娘には笑っていてほしい。
この娘を護りたい。
「フユ? 次はどこいくの?」
あの時とはまた違う。
この関係の心地よさは私を救っている。
あそこから私を救ってくれたんだと思う。
「ついてきて!」
もう余計なことを考えるのはやめた。
だってわかるかもしれないじゃないか。
フユが私にとってどんな存在なのか。
あの人が私にとってどんな存在だったのか。
ちゃんと理解できる日が来るはず。
あの人にそれを教えてもらう。
王様、忘れていませんよね。
あなたが私にしていること。
私に命じていること。
私はあなたを許せない。
でも、感謝はしてる。
最も大切なものを教えてもらったから。
あの恐怖と痛みを忘れたことなんてない。
あの屈辱を忘れたことなんてない。
あの憎悪を忘れたことなんてない。
憎んではいない。
仕方のないことだと思う。
私が足りてなかっただけだ。
だから、成し遂げるためにやってきた。
超えるために教わってきた。
そのためにこれまで耐えてきたから。
明日になるかもしれないし、まだ先の話かもしれない。
それでも、平等は力で掴み取るもの。
それを教えてくれたのは貴方だ。
そうでしょ?
そうだっでしょ?
そのはずでしょ?
この世に平等なんて存在しないんだから。
一章 - 終 -
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