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転生少女は間違える -アキを知ってハルになる-  作者: qay
4章

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36.溺れる


 いつもの天井。

 周りを見渡せばいつもの部屋。


「ハル? 起きた…………?」


「…………」


 声のする方向に顔をむける。

 アキが横に寝ている。

 ほとんどゼロ距離にアキの顔。

 私の右手を両手で握ってる。


 理解が追いつかない。

 何が起きているのか考える。


 そして、今まであったことの記憶が蘇ってくる。

 体を急いで起こそうとした。

 でも、できなかった。

 体中から激痛が走り、ベットを転がる。


「ほら、ダメだよ」


 アキは上半身を起こす。

 布団を私と自分に被せて、また一緒に寝る。

 すぐ横にアキの顔があって、顔が真っ赤になる。

 目を逸らしたくても逸せない。


「ふふ…………」


 私の鼻をつつきながら笑うアキ。


「………ァ……」


 声が全く出ない。

 自分の体じゃないみたいだった。

 何もかもが自由にできない。

 体に力が入らない。


「声がうまく出ない?」


「…………」


 私は弱々しく頷く。


「当たり前だよ。ハルは一週間も起きなかったんだから」


 そんなに寝ていたことに驚愕する。

 そこまで消耗していたんだって事に怖くなる。


「私のためにこんなに傷を作って……」


 私の腕をアキが撫でる。

 壊れ物を扱うように優しく撫でる。

 

 私に後悔は何一つない。

 一生傷が残ったとしても、それを誇って生きていける。

 それぐらい自分のやったことに後悔なんてない。


「顔にあった傷は、跡が残らないように全部を治してもらった。でも、体の傷も跡を残さずに治すには、少し足りなかったみたい。ごめんね……」


 何が足りないの?

 そう聞きたいけど、口をぱくぱくさせるだけで声が出ない。


「どうやって傷を治したか知りたい?」


 私は頷く。

 顔は見えないからわからないけど、体に入ってる傷を見ても、自然に治るような傷ではないと思う。


「…………教えてあげな〜い!」


 くすくすって、可愛らしく笑いながらそういうアキ。

 でも私は、そんな冗談に付き合っていられるような精神状態ではない。

 それが顔に出ていたんだと思う。


「ハル、怒った? 怒ったんだ……! 仕返しだよ。あの時に私を置いてった仕返し。本当に、本当に悲しかったんだから。だから絶対に教えてあげな〜い」


 そう言ってアキはまた可愛らしく笑った。

 その顔はとても、とても、とても素敵だった。

 

 それだけで全て許せる。

 その顔が、またずっとみれるって思っただけで、何もかもがどうでもよくなる。


「まぁ、今はそんなことは気にしないで、体を治そう? しっかり体が動かせるようになるまで、ずっと付きっきりでいるから」


 アキはおでこをくっつけてくる。

 真っ赤だった顔が更に赤くなるのを感じる。


「だから、自分のことを一番に考えて? そう約束したでしょ?」


 私は黙って頷くことしかできなかった。

 アキとの約束は私にとって全てだから。



 ◇



「ハル! がんばれ〜!」


「…………うん」


 一ヵ月も経った。

 それでもまだ、何かに捕まりながら歩くのがやっと。


 あの後、数日も経たない内に喋れるようになった。


 だからいろんなことをアキに聞いた。

 あの後、どうなったのか。

 あの人は、どうなったのか。

 

 気になることだらけ、知らないことだらけ。

 今、私にわかってることは何もわからないってことだけだったから。

 わからないことを片っ端から聞いた。

 

 でも聞いても、聞いても、アキは、

 

「何もかも解決したから、ハルは気にしなくていいよ」

 

 そう言って何も答えてくれない。


 受け入れる準備をしていたから、今なら何を聞いても大丈夫だと思う。

 それでも、アキは何も教えてなんてくれない。

 その内、聞くのを諦めた。

 

 そして、少しずつ体は動くようになってきて、何かに捕まりながらではあるけど歩けるぐらいにはなった。


 アキの下まで、手すりにつかまって必死に歩く。


「よくできました〜!」


「…………うん」


 崩れるようにアキの胸に飛び込む。

 

「よしよし〜。今日は頑張ったから、もうお風呂いこうね!」

 

 頭を撫でてもらって、お姫様抱っこで、お風呂まで運んでもらう。

 

 あの日からずっと、アキに甘やかしてもらえる。

 この日常の中でいつの間にか、全てがどうでもよくなってた。

 

 いや、わかってるよ。

 言われなくたってわかってる。


 私は考えるのが嫌なだけだ。

 あの人のことを考えるのが、自分が奪ってしまった色んな物の事を、考えるのが、知るのが本当は怖いだけ。


 だから私は、この愛おしい日常に溺れる。

 願ったものを手にしたから、今はそれでいい。


 頭を体を全身を洗ってもらって、一緒にお風呂に入る。

 

「ハル? 大丈夫? 疲れてない?」


 私の耳元でアキが言う。

 

 あの日から、アキは1人じゃ危ないからって、私のことを後ろから抱き抱えるようにしてお風呂に入ってくれている。

 アキの何もかもが近くて、この時はいつもドキドキする。


「大丈夫だよ……」


 私は返事をする。


「それならよかった……!」


 いつも通りのやりとり。


 この幸せはいつまでも続いてくれる。

 やっと手にした、やっと終わったから。


 だから、今はこれでいい。

 今はこうしていたい。


 私達の甘くて優しい日常は過去に溶けていく。

 溶けていく優しい記憶で過去を覆いながら、未来へと進んでいく。


 辛い過去が全部、優しい記憶で覆い尽くすされるように願いながら、この日常に溺れ続ける。




 

昨日はすいません。

体調不良で更新できませんでした。

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