34.赤と白
思考がクリアだ。
広場で戦っている、目の前の相手を殺す。
それだけしか考えていない。
「すごいじゃないか、ハル! やっぱり君は化物だね!」
何を言われても、何も感じない。
感じる必要がない。
目の前に立つ人を殺す。
アキのためにそれをする。
それしか考えていない。
生まれた鉄を、生まれた瞬間に燃やし尽くす。
冷静にやれば何も問題ない。
攻撃をさせる隙なんて与えない。
これならまともな戦いにすらならない。
「ははっ。これはどうしようもないな……」
この人は私の相手になんてならない。
冷静に殺すだけ。
距離をとり、逃げながら戦うシキ。
間合いをつめるだけで全てが終わる。
でも、それができない。
させてくれない。
私の死角から適切なタイミングで繰り出される攻撃と造られる障害物。
これが経験値の差なんだと思う。
「…………クソが」
「随分と口が悪いね、ハル。それも君の本性なのかな?」
「……そうかもね。でもお前が知る必要なんてない」
「……」
「今日死ぬお前には関係ない」
一気に間合いを詰めようとする。
その時、
「冷静さを欠いたね……」
「――――っ」
気づかなかった。
頭を狙った後ろからの攻撃。
なんとか、ギリギリで反応できた。
額が切れて血が顔を覆う。
血は拭っても拭っても止まらない。
「これではどうかな?」
目の前に浮かぶ大量の鉄。
それを一斉に飛ばしてくる。
「……」
右の刻印が光り輝く。
手を向ける。
そして、一瞬で消し炭にした。
「やっぱり、君は化物だな…………」
「…………」
「俺なんかでは、君に勝てるわけがないね……」
「……なら、今すぐ死んで?」
アキのために今すぐにでも死んでほしい。
悲しい事実をアキが永遠に知らなくていいように。
「それはできないよ」
「なんで? 男のプライドってやつ?」
「ははっ。本当の、本物のハルは容赦がないね」
自重気味に笑うシキ。
その顔はひどく寂しそうにも見えた。
「そうだよ。その通りさ。俺の人生を賭けた復讐が、君みたいな小娘1人に、全部壊されようとしてる」
「…………」
「それは本当に受け入れ難いことだよ……」
「……それならなんであんなことを言ったの?」
少なくとも私に事実を、真実を告げなければ、こんなことにはなってなかっただろうに。
「……それを俺の口から言わせるのか? 君も本当はわかってるだろ?」
わかってる。
シキがしてほしいことはとっくに気づいてる。
「……もう関係ない。考えない」
「…………」
「シキ。あなたのことを考える時間は終わった」
「…………そうだね」
「だから、もう茶番は全部終わりにしよう」
もう本気で殺しにいく。
そうシキに伝える。
「……わかった。俺も…僕も全力を出そう」
何本もの剣が空中に現れる。
数は数え切れない。
「剣は一度に一本しか作れないんじゃなかったの?」
そうあの時に聞いていたはず。
「……嘘だよ。手の内は、切り札は隠すものだろ?」
そういって笑うシキ。
「…………そうだね」
私は覚悟を決める。
私達に会話はもういらない。
シキを殺すために一気に近づく。
全てが、全部がスローに見える。
どこか別の世界に迷い込んでしまったような、そんな感覚。
必要な魔法を無意識に発動できる。
何も考えなくても、それができる。
飛んでくる剣が私の横を通りすぎる。
腕や脚、顔付近を掠める。
全身に傷ができた。
私の血で地面が赤くなる。
それでも進み続ける。
傷が全く痛くない。
全ての感覚がなくなってしまったようだ。
そして靄がかかったような視界。
余計な情報は少しも頭に入ってこない。
時間が本当にゆっくり進んでいるように感じる。
気づけば目の前にシキの顔。
それを思いっきり殴った。
吐き出せていない気持ちを全て込めた。
吹っ飛ぶシキ。
それすらも本当に遅く感じる。
階段下まで吹っ飛んだシキは動かなくなる。
「……もう…何も…残ってないよ。もう…動けない」
やっと終わらせられる。
もう終わりにできる。
「はぁ…は…ぁ………殺す…殺す…………」
私は歩いてシキに近づく。
同じ言葉を呪文のように繰り返す。
その足取りはとても重い。
思うように体が動かない。
視界は揺れて、焦点がうまく定まらない。
歩くたびに私の大量の血で地面を赤く染める。
それでも、フラつきながらシキの元まで辿り着く。
距離は少しある。
でも、充分だ。
「……殺す…殺す…………」
また繰り返す。
まだ繰り返してる。
「……あぁ。やっとだよ。やっと解放される」
「……はぁ……はぁ……」
「本当に長かった。ありがとう。ハル」
右手をシキにむける。
何を言ってるかよく聞こえない。
何も聞きたくない。
「……はぁ……はぁ……」
「…………」
悲しい事実も現実も何もかも私が消す。
アキのためにそれを私がしなきゃならない。
怒りで頭の中が真っ白になっている。
シキの言葉は何一つ聞こえない。
私はシキを殺すために魔法を放とうとする。
あの人達にしたみたいに、また自分で選んで人を殺す。
でも、その覚悟がシキに届くことはなかった。
暖かい光が私を包み込む。
魔法は打ち消されて、私の目の前に人が立つ。
「……ハルそこまでだよ」
「………………え?」
それは私の最愛の人だった。




