33.決めた
「……な…にを……言ってるの?」
理解ができない。
理解が追いつかない。
信じられない。
信じたくない。
「言葉通りの意味だよ」
「……え…………?」
私を挑発するように笑うシキ。
「アキを殺すために、あの事故は、俺が…全て仕組んだ」
「……は…?」
「簡単だったよ。アキの両親に最後だと旅行を提案して、新しい馬車を用意した。その馬車の中にアレを仕組んだ」
「……アレ?」
「君もよく知っているだろ?」
知ってる。
私もそれに頼って、今まで魔物を殺してきた。
何も考えず、使ってきた。
「途中までは何もかもうまくいってたよ。誤算だったのはアキが生き残ったことだ」
「………………」
「アキは理由を頑なに、あの時の話をしようとはしなかったけどね」
混乱して、思考に靄がかかって正しく情報を処理できない。
考えが全くまとまらない。
私が信じたくないから、考えることを放棄してる。
「気まぐれで、彼女を懐柔してみたらうまくいったよ! 最悪、次は確実に殺せばいいと思っていたからね。それほど、彼女の力は脅威だ。でも、だからこそアキは実に素晴らしい道具になった!」
「……道…………具…………?」
いってることの意味がわからない。
「そうだよ? それ以外で、殺そうとしていた人間を生かしておく理由があるかい?」
「お…まえ…………!」
湧き上がる感情に心を支配される。
視界が真っ赤に染まっていく。
「そして、気づいたら君まで付いてきた。僕にとってアキは最高の道具だったよ」
「………………」
心を沈める。
落ち着けなきゃならないのに、どうにもならない。
私の刻印が光る。
「でも、結果的には最悪の失敗だったよ。最高の道具が連れてきた君は、気づけば最大の障壁になってた」
「はぁ…は……ぁ…はぁ」
落ち着け、落ち着け。
煽られてるだけだ。
「他の奴らみたいに、アキもちゃんと殺しておけばよかったよ」
「他の……奴ら………………?」
「そうだよ。アキだけじゃない。私の邪魔になりそうな多くの人を同じような方法で、罠に嵌めて殺してきた!」
もう遅かった。
私の言葉なんかじゃどうにもならなかった。
何もかも、遅かった。
私じゃどうしようもできなかった。
「アキとの家族ごっこは、私の最大の失敗だったよ」
「家族……ごっこ?」
定まらない思考に、その言葉はやけにハッキリと聞こえる。
「そうだよ? ……愛情…なんて……少しもなかった」
「………………」
「あの時、ちゃんと……殺しておけばよかったよ」
その言葉で、靄が晴れる。
一つのことしか考えられなくなる。
「さぁ! ハル! どうするんだ?」
「……」
わかってる。
「事実を知った君はどうする?」
「……」
やらなきゃならない。
「さっきの言葉をもう一度、君は言えるかい?」
「……」
もう言えない。
「これでもまだ、足りないかい?」
「……」
もう覚悟は決まってしまった。
「それなら、次はアキを殺そう……」
「……」
ゆっくりと顔を上げる。
また許せない、許されない言葉を言うシキ。
「君の全てであるアキを、俺がこの手で次は確実に殺す」
思考が一気にクリアになる
もう、全部決めた。
それしかもう考えられない。
考える必要がなくなった。
「……殺す………………」
「なんだい? ハル? 聞こえないよ」
「シキ…… あなたを…お前を殺す」
「…………」
シキが笑う。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
「……はは」
「アキを悲しませる事実は全て消す」
「…………」
「アキを傷つけようとする奴は、全部、私が殺す」
「…………」
「アキは……アキだけは何があっても守ってみせる」
「…………」
「アキに貰ったものを返すためになら、私の手なんていくらでも汚れてていい……」
それをアキのために選んでしまえるのも私だから。
「…………」
「だからシキ、お前を殺す…… そう決めた」
シキは声をあげて笑った。
それを私は黙ってみる。
「やっと…… 覚悟が決まったかい?」
「……うん」
「……遅いよ。ハル」
「……うん」
「君は出会ってからずっとそうだったね」
「……うん」
「さぁ、ハル。やろう」
「…………いくよ」
「……あぁ」
お互いの刻印が光り輝く。
もう全部決めた。
アキのために選んだ。
私自身が選んで、そう決めた。
私は魔法で一気に距離を縮める。
「それでいいんだよ。ハル」
シキがそう呟いた。
私はもう聞かない。
聞きたくない。




