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33.事実


 私は目の前に聳え立つ階段を見上げる。


 そこにはシキと階段の頂点にもう1人、誰かがいる。

 その人の顔はよく見えないが、頬杖をつきながら椅子に座り、足を組んで、私達2人を見下ろしてる。


「ハル。覚悟は決まった?」


 そうシキに言われる。


「まだ何も、何も決めてない」


 会話を噛み合わせない。

 シキが私に求めていることが何かわかってる。

 それを私はしたくないから。

 だから、何も決めてないことだけを伝える。


「決めてない…か。随分と中途半端じゃないかハル」


「…………」


「僕が求めていることをわかってて、それをしないためになんとか説得でもしようとしてる?」


「………………」


 図星だ。

 私の考えていることなんて、シキには全部透けてる。


「無駄だよ、ハル。それはもう遅いって、さっき話しててわかっただろ?」


「……うん」


「なら君は何しにここへきたんだ?」


「……それでも説得しにきた」


「………………は?」


「まだ間に合うってシキに伝えにきた。もう一度、わたしたちとやり直そうってそう言いにきた」


 シキは呆然とした顔をした後、声をあげて笑い出す。

 こんなシキは初めてみた。


「……そんなにおかしい?」


 そうシキに質問する。


「ふふ…そうだね。可笑しくてたまらないよ。だって僕はハルに、許されないことをした」


「……そうだね」


 シキの行いのせいで、私はまた人を殺した。

 出会えていない人達だったけど、大切な恩人を殺した。

 それは許せないし、多分、一生恨む。


「ハルに一生をかけても償えないような酷い仕打ちをしたばかりだ」


「…………そうだよ。辛…かったよ」


 また心が張り裂けそうになった。

 やっと立ち直った心がまた折れそうになった。

 また、アキのおかげで救われただけだ。


「僕は全て伝えた。もう何もかもが遅いってわかってて、それでも君はそれを選ぶんだね」


「そうだよ。それが私」


 何もかもを諦めたくない。

 何もかもを諦めない。


「……君は強欲だね。そして傲慢だ」


 そうかもしれない。

 いやそうなんだと思う。

 多分、私と言う人間の本質は、全てを手に入れたいっていう欲望に塗れたものなんだと思う。


「シキは…アキと私にとって大切な人だから、一生をかけてでも、私たちの2人の隣で償ってもらう」


 さよならと決意して、あの部屋を出た。

 それでも私は諦められない。

 アキとの毎日を諦められない。

 だから、なんとかしがみつこうと足掻いてみせる。


「そうか…………」


 シキの顔がいつもみたいな優しい顔になる。

 通じたんだって、また三人で過ごす日々が戻ってくる。

 そして、アキと離れなくてすむ。

 私は希望に向かって、また手を伸ばす。


「……あれだけでは、まだ足りてなかったみたいだね」


「…………え?」


 いつもみたいに優しい顔で言うシキ。

 戸惑いが隠せない。


「君に覚悟を決めさせるには、あれだけじゃ足りないか」


「シキ…………?」


「ハル、君にはガッカリしたよ。君は私と同じだと、そう思っていたのに」


「…………」


 シキのあまりの豹変っぷりに言葉を失う。


「君の言葉は俺には届かない。軽いんだよ何もかもが」


 はっきりとそう言われる。


「覚悟を決めてきたと思っていた。俺を殺してでも、自分のほしい未来を掴みとりにくると、そう期待していた」


「…期待……?」


「そうだよ。ハルはアキのためなら、それ以外の全てを犠牲にできるって思っていた。そのために彼等を使った」


「…………使った?」


 彼等を道具みたいにいうシキ。


「君は俺と同じ化物だと、そう思っていたよ」


「……それは」


「でも、ハルが人間を本当の意味で止めるためには、あれではまだ、足りなかったらしいね」


「……」


 私は自分を化物とは思ってない。

 そう思いたくない。


「なら、ハルの背中を僕が押そう……」


「……どういう……こと?」


「……アキの秘密を教えてあげる」


「……え?」


「彼女は君には自分の弱いところをみせないように頑張っていたみたいだからね。そんな彼女の弱み。知りたいだろ? ハル?」


「…………」


 黙ることしかできない。

 本人の口から聞きたいっていう気持ちと今すぐにでも知りたいという気持ちがせめぎ合う。


「彼女はね。幼い頃に家族を魔物によって殺されてるんだよ」


「……え?」


 家族を失ってる?

 アキが?


「やっぱり何も聞かされてないんだね。才能をかわれて王都へと旅立つ直前、最後の家族での旅行中に、魔物に襲われて彼女以外の人間は全員殺された」


 初めて知った。

 アキは言ってくれなかったから。


「そして、傷ついた彼女を救ったのが俺だよ。全てを失った幼かった彼女を、俺のもとで育てた」


 シキは笑う。


「彼女は俺に感謝しているだろうね。扱いに困って誰もが腫れ物のように扱っていた彼女を、俺は拾って育てたのだから」


 いい話にしか聞こえない。

 アキがシキを恩人と慕う理由にしか聞こえない。


「でもね。アキは大切な事実を知らない」


「…………」


「だから、それをハル。君には教えてあげるよ」


「……な…に?」


 怖いけど、勇気を持ってそう聞き返す。

 

「……アキの家族、アキを殺すために魔物に襲われるように仕組んだのは俺達、いや、この俺なんだよ」


 シキの顔は笑っていた。

 

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