29.わからない
「僕は王になるんだ。ならなきゃならないんだよ」
シキが何を言っているのか、わからない。
「ハル。僕はねそのためにならなんでもやるんだ」
いつもの、優しい笑顔。
いつもの優しい声。
「あの日に、そう誓ったんだよ。」
「…………そのためにこんなことをしたの……?」
意味がわからないからそう聞いた。
この惨状を作り出すこと、そして王様になること、この2つ繋がっているのか全くわからない。
「そうだよ」
「……王になるために?」
そしてもっとわからないのは、
「うん」
「…………どうしてそんなことのために……」
王様になるということのために、なんでこんなことができるのか理解ができない。
「そんなこと……か……」
シキの顔が少し歪む。
「ハル。僕は前に言ったよね。この国は変わらなきゃならないって」
「…………うん」
「だからね。僕は今すぐに無理矢理にでも変えたい」
「だからこんなことをするの……?」
こんなのは間違ってる。自分の欲望のために周りを巻き込むことが、正当化されるわけがない。
「……そうだよ。僕達は…… いや、僕には時間がない」
「………なんで?」
なんで今なの?
今じゃなければ色々やれた、それに話し合えたかもしれない。
「ハル。君のせいだろ?」
「………………え?」
「だって常に進化して変わっていく君は、この瞬間、今が一番弱いだろ?」
今、こんなことになっているのは私のせい?
「それにアキも起きない、他の王位継承権持ちも王都にはいない。こんなタイミングはもう二度とないかもしれない。だから、もう選んでる暇なんてなかった」
「………………」
黙って俯くことしかできない。
「僕の…… 俺の時間はあの日からずっと止まったままだ」
「…………あの日?」
「そう! あの日だ!!」
シキの大きな声に体が震える。
「親友と最愛の人を失ったあの日から、俺の時間は1秒だって進んでない!!!」
「…………」
言葉が出てこない。
「この国を変える、そして今の王都に復讐を果たすためなら、俺はなんだってしてきた! どんな非道にだって手を染めた!」
でもそれは、
「…………矛盾……してるよ。歪んでる。いまシキがしてることは新しい復讐を生むだけで、もしシキが王になったところでこの国は何も変わらない」
「あぁ…… わかってるよ。僕がやろうとしてることは矛盾だらけだ」
「それがわかってるならなんで……!」
そう、なんでこんなことをしてる?
「…………もう自分が何をしたかったのかわからなくなったんだよ」
「………………」
私はその気持ちを知ってる。
「俺は王になってこの国を変えたかったのか、それともこの国へ復讐をしたかったのか、それとも別の目的があったのか、今となっては最初がわからない」
私も同じだったから。
「それに、もうどちらでもいいって思ってる。あの日に、あの夜に、目に焼きついたユユの最後の顔と最後の言葉を聞いたあの瞬間から、止まってしまった時間を前に進めたい」
「………………」
「もうそれだけなんだよ」
遠くを、空を見つめるシキ。
「…………そんなこと、その人も求めて……」
「そうかもね…………。でも、それもどうでもいい」
私に向けた顔はとても寂しそうで、
「彼女は…… ユユはもういないんだから…………」
何かを諦めてる。
「僕は化物になりきれなかった。人を捨てられなかった」
何かを悟ってる。
それでもシキに言葉を、言葉を伝えなきゃならない。
「シキは私を助けてくれた!」
「そうだね」
「今、ここで歩いていられるのはシキのおかげでもある」
「そう言ってくれてありがとう」
「アキだって悲しむ…………」
「そうなのかな?」
いつもみたいに笑って返してくれる。
優しいいつものシキ。
「アキとハル。君たちの前では優しい僕になれてたかな?」
背中に背負うアキの顔を見る。
「………………うん」
多分、アキもそう思っている。
「そうか…………それならよかったよ」
優しい包み込むような笑顔。
「まだ間に合うよ…………」
「……無理なんだよ。それに最初から無理だった」
私じゃない。
アキの顔を見ている。
「事実を隠して、押し通してきたからあの日常があったんだ」
何を言いたいのかわからない。
「事実を知れば、ハルは殺したいほど僕を憎み許してはくれないだろうね」
シキは何を抱えてるの?
「なによりもアキは絶対に僕を許してはくれない」
「それって…………」
急に光が街を包み込む。
目に入る光が痛くて、目を覆う。
「…………はは。やっぱり無理か。わかってたけどね」
「何を………………」
「…………ハル? 覚悟を決めてから僕の元までおいで」
「………………シキ?」
「王が呼んでる」
「…………シキ!」
シキは後ろを向いて私から離れていく。
追いかけようとするが、前に10人近くが立ちはだかる。
「……! どいて!!!」
「シキを止めたいなら、俺達を殺して追いかけろ」
「な……にを」
「あなたに殺されるまでは絶対に退かない…………!」
「あな……た達は…………」
誰?
そう聞こうとする。
「俺達は君達の日常を作っていた人間でもあり、この国に恨みを持っている人が集まったシキの協力者だよ」
目の前に剣を持って立つのは私達の恩人。
私達を支えてくれた人達だった。




