2.特別な私
終わらせたと思った瞬間には、もう二回目が始まっていた。
気づけば赤ん坊になって抱えられている。
大好きだった小説の世界でしかあり得ないと思っていた、異世界での二回目の人生を手にした。
もう一度、チャンスをやる。
そう神様に言われてるような気がした。
前世の記憶を全て持って生まれたことにはきっと意味がある。この後悔を胸に刻んで、もう一度生きていこう。
そして、この世界でハルと名付けられた私は、特別だった。
家は質素ではあったが、両親は私が生まれた時、泣いて喜んでくれた。特に母は私が女の子であったことが何よりも嬉しそうだった。
両親とは似ても似つかない、白い髪に赤い瞳。
誰からみてもわかる特別な容姿。
そして、物心ついた時には、もう大人を含めても、村の中で私に敵う人なんて誰1人いなかった。
この世界よりも、遥かに進んでいる世界の記憶を持つ私はなんでもできた。
しかし、私はそれすら霞んでしまうような大きな力、魔法を持っていた。
王国と呼ばれているこの国で、数年に一度、生まれればいい方と言われているらしい。
左右の腕にはそれを示す刻印が生まれつき存在している。
魔法を使おうとすると、その刻印が光り輝く。
魔法使いには一人につき、一つの能力が与えられて生まれてくる。
それがこの国の常識とされているらしい。
でも、私はその特別な魔法使いの中でも、さらに特別だった。
火の魔法で薪を燃やす。
水の魔法で村の生活用水を作る。
風の魔法で空を飛び、木を切り裂く。
土の魔法で壁を作る。
氷の魔法で食べ物を保存する。
最初はすぐに限界を迎えていた。
しかし、使えば使うほど魔法を使用できる時間が伸びていく。
気づけば、私が操る五つの魔法は、この村に住む全員の生活を変えていた。
両親は喜んでくれた。
頭を撫でて、抱きしめてくれた。
精神だけはなぜか歳相応のものとなっているのかもしれない。頭ではわかっていても、身体や気持ちが子供のような反応をしてしまう。
本当に奇妙な感覚だった。
でも嬉しかった、誇らしかった。
この刻印が私を特別だと示してくれる。
あなたは将来、この国の王様になるんだよ。
それがどういう意味か、全く理解していなかったが、私はそう言われて育った。
8歳となった私は人の命を救うようにもなった。
魔物と呼ばれている化物が存在していて、これまで多くの人を殺してきたらしい。
この村が襲われたことはなかったらしいが、ここから離れた場所では多くの人が犠牲になっている。
そう聞かされた。
いてもたってもいられなかった。
これは特別な私の特別な使命だ。
考えるより先に行動していた。
幼い子供が考えるような正義の味方になれると思った。
空いている時間は魔法を使って移動し、その周辺を見回った。
そして襲われた人達を見つけては、物語のヒーローのように次々と救ってみせた。
感謝されることが嬉しかった。
この世界で私は本当の意味で特別になれた。
その誇りが、私を縛っていった。
ある時、間に合わずに犠牲になってしまった人がいた。
私がもっとはやく、駆けつけることができれば、目の前にいる人は泣いていなかった。
胸が張り裂けそうだった。
ヒーローを続ければ続けるほど、犠牲が出ることは珍しくなくなっていた。
心が折れそうになる。
だから私は楽になるために、自分勝手を押し付けた。
泣いている人には笑ってほしい、後悔してる人には前を向け。
そんな言葉を、失って傷ついてる人に平然と吐ける自分自身に、心底吐き気がした。
それでも魔物を殺した。
人を救いづづけた。
必死に人の役に立とうと努力した。
理不尽に奪われて、泣く人を一人でも少なくするために全力で闘った。
そんな私を支えてくれるはずの両親。
今日もよくやったねって褒めてくれる。
でも、いつからだろう。
頭を撫でる母の手が震えだしたのは。
もう、抱きしめてくれることもなくなった。
(私が怖いの?)
そう言ってしまいたかった。
でも言えなかった。
私は壊れそうな心を必死に守った。
村を支え、人々を救う。
そんな特別な使命を持った私の生活は数年続いた。
そんなある日。
なんてことない日常。
でも、その日は少し違ったことがあった。
母と喧嘩をした。
二回目の人生で、生まれてはじめての喧嘩。
きっかけは些細なことだった。
怒りで感情が昂り、母の手にある食器を魔法で壊してしまった。
その時、
「化物……」
その瞬間、私の腕が輝いて、見えているもの全てが赤く染まった。
「お母さん……?」
母だったものが、目の前で倒れて動かない。
魔法を全く制御できなかった。
前世の記憶があり、半端に大人を気取っていたが、感情を全く制御できなかった。
自分自身がこんなにも愚かで、ただ無駄に長く生きただけのクソガキだったなんて思わなかった。
魔法がこんなに恐ろしいものだなんて知らなかったんだ。
私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない
呪文のように心の中で繰り返す。
魔法の恐ろしさは私が1番知ってるはずなのに。
そうだお父さんは?
急いで振り返る。
私を見る父の目は、恐怖で染まっていた。
一歩踏み出した時、
「くるな!!!!!化物!!!!!!!」
私は意識を失った。
次に目を覚ました時、私は拘束されて牢に転がされていた。
その後のことはよく覚えていない。
私は、王都と呼ばれている場所に送られることになったらしい。
理由はよくわからないが、私を殺すわけにはいかないとのことだ。
数日が経ち、迎えがきた。
村の誰にも会うことなく、拘束されたまま雑に馬車に押し込まれる。
意識がはっきりとしないまま馬車に揺られ、見たこともない大きな家で開放された。
そして私は、その家の一室に引き篭もった。
数人いるらしい使用人も、食事を部屋に放り投げる以外は化物である私が恐ろしくて近寄ることはない。
特別な力を持っても、私の末路は同じらしい。
本当にいるのであれば神様も、さぞガッカリしていることだろう。いや、前世よりも酷い結末となったことで、力を与えたことを後悔しているはずだ。
魔法の恐ろしさは、私が一番に理解していなきゃいけないはずだった。私の腕に刻まれた特別である証は、気づけば呪いにかわっていた。
前世の記憶を持ちながらも、力に溺れて母を殺した。
私の心は何も成長してない。
生きた年だけ無駄に重ねてきた、大人を気取るクソガキ。
それがこの世界ではハルと呼ばれた私。
この暗い1人きりの部屋で二回目を終えるのだろう。
そう思い、化物の私は膝を抱えながら、今日もまた涙を流す。




