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転生少女は間違える -アキを知ってハルになる-  作者: qay
3章

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24.ハルの日記


 0歳 4月4日 天気:晴れ


 昨日、私達の子供が生まれた!

 ハルとそう名前をつけた!

 

 髪は白くて、目は赤い。

 私達とは全く違う。

 でも、可愛い可愛い女の子!

 本当に可愛い。

 

 ハルを抱いた時、本当にお母さんになったんだって自覚が芽生えた。

 ハルがいつか結婚する時のために、記録を残す!

 つまり、日記を書く!

 この娘を一生懸命に育てて、立派な人間にして、笑顔で送り出そう!


 私をお母さんに選んでくれてありがとう!


 


「こ、れは…………」

 

 私の知らない、もう覚えてない忘れてしまった私のこと。


 

 

 0歳 6月18日 天気:曇


 私達の娘には特別な才能があるらしい。

 魔法という人智を超えた力。

 

 それでも関係ない!

 私はお母さんとして、ハルを育てる!

 色々な大切なことを教えたい!

 周りにとってハルがどんな存在でも、私達にとってはかけがえのない特別であることは何も変わってない!


 ハル! 愛してるよ!!!


 


 私の知らない忘れてしまった毎日が、沢山、沢山書いてあった。


 

 


 1歳 4月3日 天気:晴れ


 ハルが一歳になった。

 私達の子供、ハルはやっぱり特別だ!

 もう魔法を使ってる!!

 ハルが作る、火が水が風が土が氷が本当に綺麗。


 でも、そんなことよりハルの方がよっぽど綺麗。

 どれだけの美人さんに育ってくれるのかな?


 ハル! 大好きだよ!


 


 一歳の私はたわいもない、幸せな日常を過ごしていたらしい。お母さんの気持ちが文字からも伝わってくる。


 


 2歳 4月3日 天気:曇


 ハルが2歳になった!

 1人で歩くまで時間がかかって心配したけど、今では普通の赤ちゃんと同じように歩けてる。

 

 本当に可愛い。私の特別な娘。

 

 魔法も上達して、2歳で家事を手伝ってくれようとしてきた。危ないからどかしたけど。

 本当に、本当に可愛い!!!


 生まれてきてくれて、特別なハルを育てさせてくれてありがとう!!!


 


 毎日、毎日のように幸せな文字が綴られる。そして、私の知らない私がそこにはいた。

 



 3歳 4月3日 天気:晴れ


 3歳!

 めんどくさがりな私が、毎日のように日記を書き続けられるほど、ハルはいろんな事件を起こす。

 

 火で家を燃やしかけた時は、流石にキツく怒ったけど、外で練習する分には問題なし!

 

 生活も大助かり。

 火を起こす必要がなくなったし、水なんて汲む必要がない。

 でもそんなことより、お母さん、お母さんって抱きついてくれることが本当に嬉しい!


 ハル!生まれてきてくれてありがとう!!!


 


 4歳 4月3日 天気:曇


 ハルが4歳になった!

 時が経つのは本当にはやい。

 ハルはどんどん可愛くなった!

 

 髪の色も瞳の色も顔も全く違う。

 でも、明るいわんぱくな性格なのは私と同じ!

 

 私なんか比べ物にならないほど美人さんに育つ!

 そしてもう私達だけじゃない。

 

 ハルは村にとっても特別な娘になった。

 生活がハルの魔法によって変わった。

 本当に、本当にハルは特別だ!


 ハルが娘で私は誇らしい!!!


 


 私が知っている、私になっていく。

 お母さんは私を愛してくれていた。

 

 でも、喜んでくれるお母さんを絶望させてしまう。

 それがわかっているから、怖くなる。

 

 でも知らなきゃならない。

 お母さんが、私を恐れてたことを、こんな娘が生まれたことを恨んでいたことを。

 自分と向き合わなきゃいけない。



 

 5歳 4月3日 天気:曇


 ハルは5歳になった。

 もう、家にはほとんどいない。

 ハルを必要としてくれる人が私以外に沢山いる。

 その助けをしに、家を出てしまう。

 でも、ハルのいってきますに、いってらっしゃいを返すのは欠かさない。

 お母さんとハルは繋がってるって、そう思ってもらいたいから。

 いつか伝えさせて。


 ハル。愛してる!




 心地よかったよ。お母さん。

 お母さんが待っててくれるってわかってたからいつだって、どこにだっていけた。

 

 こんなに、こんなに愛されてた。

 なのに私は全部自分のせいで失った。

 

 そしてここから、毎日だった日記の頻度はどんどん落ちていく。


 


 6歳 4月3日 天気:晴れ


 ハルが6歳になった。

 ハルは遠くに行ってしまったみたい。

 私の娘は本当に特別だった。

 誇らしいと同時に、寂しいって思う。

 もっと頼られたいっていうのは親のエゴだってわかってるけど……。

 それでも寂しい。


 でも成長してるハルを見ていたいから、私も頑張らなきゃ。

 でも、いつかこの時もちゃんと愛してたって伝えられるように記録を残す!


 ハル! 愛してるよ!!!!


 

 

 知らなかった。

 私は面倒な娘だって思われてると思ってたから。

 そして、7歳は誕生日の日記しかなかった。

 簡素で一文。

 そして8歳。私が化物に変わってしまった歳。


 

 

 8歳 7月13日 天気:雨


 ハルが血まみれで帰ったきた。

 怪我をしたんじゃないかって、急いで駆け寄ったら、魔物を殺して、人を救ったという。


 そう笑顔で言うハルが少し怖くなった。

 私は母親失格だ。

 大切な娘が、誰かを救ったというのに、褒める声が、撫でる手が震えてしまった。

 本当に私は最低な母親だ。

 

 明日は笑顔で褒めてあげよう。

 笑顔で、いってらっしゃいって送り出してあげよう。

 そうしなきゃならない。

 ハルの母親として。




 あの日のことが書いてあった。

 私はすぐに続きが読みたくて、ページをめくった。



 

 8歳 10月25日 天気:晴れ


 私は最低だ。

 撫でてあげることも、褒めてあげることも恐ろしくて、できなくなった。

 でも愛してる…………

 

 いってらっしゃいも言わなくなった。

 ハルが怖いって本気で思ってしまった。

 ハルを導くなんて言っておいて、なにもできないどころか、ハルをきっと傷つけてる。


 愛してるなんて言葉を、ここで書くだけ。

 

 私は最低な母親だ。


 


 8歳 10月26日 天気:曇


 私は最低だ。



 

 8歳 10月27日 天気:雨


 私は最低だ。



 8歳 10月28日 天気:晴れ


 私は最低だ。




 

「なに、これ…………」


 言葉を失った。

 毎日、私は最低だと一言だけ記されたページが続く。


 ぐちゃぐちゃになってる紙。

 荒くなってる文字。

 お母さんは自分を攻め続けていた。


 私は知らなかった。

 私を産んだことを恨む文章が続くと思っていた。

 私が娘であることを後悔してるって思っていた。

 そして、10歳。

 あの日の前日。

 その日の日記は違った。



 


 10歳 9月26日 天気:雨


 昨日、ハルがまた血まみれで帰ってきた。

 明るかったハルは、どんどん暗い表情しか私に見せてくれなくなってしまった。

 辛いってわかってるのに、なにもしてあげられなかった。

 それも私達のせいだってわかってる。


 愛してるってことを伝えられなくなった。

 恐ろしくなってしまって抱きしめられなかった。

 本当は行って欲しくなくて、いってらっしゃいって言えなくなった。

 みんなにとって特別なハルを私は恐れてしまった。

 

 全部、全部、全部、全部、全部、私達が、いや私が悪い。わかってるんだ。

 何もかもハルに恨まれて当然のことをしてきた。


 だから明日こそ言う。

 辛いことは辞めてもいいって。

 私にとってはハルの存在自体が特別だから。

 みんなの特別になんてなる必要はないって。

 やりたくないことからは逃げてもいいって。

 私が、お母さんがついてるからって。


 大好きで愛してるハルのために何かしたいって。

 今まで、本当にごめんなさいって。

 母親として私にも何かさせて欲しいって。

 

 今更、遅いのかもしれない。

 いや、遅すぎるとわかってる。

 それでも、ハルに許してもらえるまで謝り続ける。

 ハルに許してもらうためならなんだってできる。


 だって私は世界で一番、ハルを愛しているから。


 ハル。世界で一番大切な私の宝物。

 ごめんね。ごめんね。本当にごめんね。

 明日伝えるから。絶対に変わるから。

 もう一度、もう一回だけでいい。

 

 私にお母さんになるチャンスをください。

 愛してるよ。ハル。



 


 お母さんは私を愛してくれていた。

 化物の私を愛してくれていた。


 私はあの日、なにも聞かなかった。

 お母さんの言葉を遮った。

 取り返しのつかないことをしてしまった。


「ハル!」


 そう呼ばれて振り返る。


「お……母さん」


 笑顔で、笑って私を見てくれるお母さんがそこにはいた。


 私の過去に、私自身に向き合う時がきた。



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