22.1人
アキと約束をした日から数週間。
私はまた、ここにいる。
この部屋で1人、閉じこもってる。
「今日、帰ったら話があるの」
アキとそう約束をした日。
それが果たされることはなかった。
私達はこの家に、この部屋に、一緒に帰ってくることはできなかった。
聞いていた。
とてつもなく数が多いって聞いていた。
聞いていたはずだった。
でも私は目の前のことはなにも見えてなかった。
頭の中で考えていたのはアキとの約束のこと。
どんなことを話すの?
どんなものを渡すの?
どうして今じゃダメだったの?
あの場所じゃ言えないの?
私と離れたくなったの?
私はもういらなくなったの?
私がアキの本当に役に立つ瞬間が終わったら私を捨てるの?
そんなことばかり考えていた。
自分のことだけ考えてた。
なにも集中できてなかった。
周りが見えてなかった。
見ようとしてなかった。
気づいた時にはもう遅かった。
「アキ!!!」
シキがそう叫んだ瞬間にはもうアキは魔物に囲まれていた。
私は急いで振り返った。
アキが背中から魔物に襲われるところを見た。
背中を切られて、アキから噴き出す血を見た。
アキが倒れ込む瞬間はとてもスローに見えた。
倒れ込んで動かないアキを見た。
その瞬間、私は思ってしまったんだ。
これでアキは私を捨てられない。
そう思ってしまった。
私は最低最悪の人間だって、その時に気づいた。
いや、もう知っていたことを再認識した。
怒りにまかせて全ての魔物を蹴散らした。
一瞬で全てが終わった。
終わらせることができてしまった。
そう、私はできたはずだった。
やれたはずだった。
こんなにも一瞬で全てを終わらす事だってできた。
でも怖かった。
アキに本当の私を見られるのは怖かった。
とっくにシキを超える化け物になってる私をアキに見せるのが怖かった。
いや多分、初めから既に超えていたんだろう。
それを見せるのが怖かったんだと思う。
アキを私に繋ぎ止めるために、無意識にそれを体が選んでいたのかもしれない。
私のエゴでアキを傷つけた。
取り返しのつかない事をした。
アキの守りの魔法があればアキは傷つかない。
攻撃されても大丈夫。
そう過信していた。
アキが使える魔法の詳細も、なにも聞いていない、確認してないくせに、アキなら大丈夫って思っていた。
自分のことだけで周りを何も見ていない。
そのせいで取り返しのつかない間違えを犯した。
アキはシキの家で寝ている。
まだ目覚めない。
あの時、頭に強い衝撃を受けたアキ。
もう目覚めないかもしれないってそう言われた。
もう二度とアキとは会えないかもしれない。
その事を伝えられた私はあの部屋に、アキとの全てが詰まってるあの部屋に逃げ込んだ。
思い出をなくさないように、忘れてしまわないように、二人で過ごした場所がなくなってしまわないように。
全部、全部を私と一緒にここに閉じ込めた。
アキがここにいた、その跡が消えて無くなってしまわないように。
アキがいなくなれば、この通り。
また部屋の隅に一人でうずくまる。
一人じゃ、この部屋の扉に手もかけられない。
こんな扉すら開けられない。
ほらね。また、引きこもりの誕生だ。
ね? アキ。私は成長なんかしてないでしょ?
そうアキに言って、そうだねって笑ってほしい。
ハルには私がいなきゃダメだねって、そう言って抱きしめてほしい。
でも、これも全部、私のせいだ。
私が選択を間違えた。
私はまたやってしまった。
取り返しのつかない間違えを重ねていく。
こんな私はもうこの世に存在してはいけない。
許されるわけがない。
でも、私は死ねない。
私は三回目が怖い。
いつだって私はそう。
アキと離れるのが怖い。
やっと手にしたものを失ってしまうことが怖い。
そして終わらせてしまったら、もう一度、またもう一度この苦しみを1から味わうかもしれない。
そのことがどうしようもなく怖い。
私はまた一人になってしまうことが怖い。
こんな時でも自分のことしか考えてない。
「やっぱり、またダメだったよ………お母さん」
「…………………………」
なにも言ってくれない。
黙ってこっちを見つめてる。
こんな時に、私を恨んでるはずの、幻であるはずのお母さんすら頼ろうとした。
私は本当にダメな人間だ。
この醜い化物が私の本当。
すいません。またサブタイトルを変えました。
これ以降、変えることは多分ないと思います。
今日は後、2話投稿する予定でいます。




