21.依存
「アキ………… どこにもいなくならないよね」
「うん。ずっと一緒にいるから寝よう?」
「うん………………」
私のアキへの依存は取り返しのつかないレベルにまできている。
お母さんが見えるようになってから余計に酷くなって、そしてあのデートの日、私は怖くて仕方なくなった。
私の本当を暴かれた気がした。
本当の私は醜い人間だって私自身はわかってる。
アキを縛りつけるために本当の自分を隠して、アキに必要とされる私を作り上げた。
本当の私は誰にも求められていない。
アキに私の本当を知られたら、失望されるに決まってる。
私から離れていなくなるに決まってる。
自分から逃げて逃げて逃げ続けた。
その成れの果てが今の私。
私の本質はあの時からなにも変わってない。
だからあの時、アキに言われた気がした。
アキには私の全てがバレてるんじゃないかって。
お前の本性はわかってる。
もうお前は必要ない。
もう面倒だからお前を捨てたい。
お前が邪魔だから離れたい。
そう言われてる気がした。
私が成長しているなんて、心にも思ってない嘘をついてまで、私から離れようとしたんじゃないかって怖くなった。
アキが私の邪魔をしているなんてあり得ない。
ここまで来れたのは全てがアキのおかげで、ここまで進んでこれたのはアキの役に立ちたいから。
変わったように見せかけてでも、それだけは偽りなくしてきたはずだった。
アキに求められるように自分を演じた。
アキに失望されないように心を殺した。
それができるようになったのも、私が人間に変われたのも、日常を送れるようになったのも、アキが助けてくれたから、アキがいてくれたから。
私はなにも成長してない。
依存して、成長してるフリをしてるだけの臆病者。
私はアキがいなきゃ生きていけない。
でも、これじゃ足りないのかもしれない。
アキの側にいるためなら私の全部が私じゃなくなってもいい。
これ以上、アキに失望されたくない。
◇
「アキ? 大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
私はアキに尽くした。
「アキは休んでて」
「……わかった。ハル、気をつけてね」
「うん。ありがとうアキ」
私ができることはなんでもやった。
アキに必要とされるためなら、なんだってできた。
アキは受け入れてくれた。
料理以外の家事も買い物もできるだけ私がした。
そして魔物をシキと協力しながら、できるだけはやく殲滅する。
アキに失望されないように、否定されないように、私は私にできることを繰り返す。
お母さんはあの日以来、ずっと視界にいる。
「すごいハル! また上手に殺せたね! そして傷ついたフリをすれば、これでまたアキに甘えられるね!」
私が何かするたびに貶してくれる。
醜い私を肯定してくれている。
本当の私をお母さんは知ってくれている。
幻だって頭で理解していても、それだけで満足した。
「アキ? 一緒に寝て?」
「いいよハル。こっちにきて話そ!」
この僅かな時間だけで満足だった。
「ねぇアキ?」
「どうしたの? ハル?」
馬車の中でするこのやりとりだけで心地よかった。
「アキ? いなくなったりしない?」
「……しないよ」
このやりとりだけで安心した。
私の全てはアキに染まってる。
手遅れだから、歪だってわかってても、もう引き返すことなんてできない。
その選択肢は、もうどこにもない。
視界にはお母さんがいる。
怒っているような、悲しそうな、なんとも言えない表情をいつもしてる。
この人を見るたびに思うんだ。
今度は間違えてはいけないって。
アキに捨てられたら、次はないんだってそう思う。
だから私はアキを繋ぎ止めるためならなんだってする。
◇
いつも通りの日常。
アキのため、私のために魔物を殺す日。
今日は、とてつもなく数が多いって聞いた。
そして、アキはいつもと少し違った。
あの部屋を出る前、アキはあの部屋の本棚に一冊の本を置く。
暗くてどんな本なのかは、よく見えなかった。
その本以外に本なんて一冊もない。
ただの飾りの本棚に一冊の本を置いた。
それはなにって聞きたかったけど、それを聞いてはいけない気がした。
なぜなら、その本を置いて振り返ったアキは決意に満ちた、何かを決めた、そんな目をしてたから。
「アキ! あのね! 今日は、……」
「…………うんそうだね」
必死に話をする。
怖かった。
私は捨てられるんじゃないかって。
アキがその決意をしたんじゃないかって。
あの目を見て怖くなった。
あの本を見て、決めてしまったんじゃないかって。
そう考えたら怖くて聞けなかった。
馬車は目的地へと向かう。
「ねぇ……ハル?」
「な、なに…………?」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
それでもアキの言葉を待った。
「今日、帰ったら話があるの」
「うん…………」
「大事な、大事な話」
「そ……れは……」
私が必要なくなったって話?
そう言ってしまいたかった。
「私達が始まったあの場所で、あの部屋で」
「……………………」
「ハルに伝えたい、伝えなきゃならないことがある」
「今じゃ…………ダメなの?」
素直にそう聞く。
「あそこじゃなきゃダメ。今、伝えてもハルには伝わらない気がする。それに渡したい……物があるから」
「それは………………」
なんなの?
そう聞こうとする。
でも、
「もう着くね…………」
「うん………………」
なにかは聞けなかった。
そして、
「アキ! アキ! 目を覚ましてよ!お願い!!!」
それをアキから聞くことも私はできなかった。
無様に泣き叫ぶ私を、お母さんが笑って見てる。
私は性懲りも無く、また間違えた。
明日は複数の更新できたらいいなって思ってます。




