20.デート
「ほら! アキいくよ!!」
「うん…………」
浮かない顔をしてるアキを、手を引きながら街中を連れ回す。
いつもの私達とは立場が逆だ。
でも、そんな日があってもいいと思う。
アキの手を引けるのは誇らしい。
思い出の場所をいつもみたいに2人きりの馬車で巡る。ルートは私が決めて、あとはシキになんとかしてもらった。
「僕も二人には仲良くしていてほしいからね」
そう言った彼は昨日の今日で準備を済ませて、翌日には、私にどこに行きたいかだけを聞いてくれる。
本当に仕事ができるシキ。頼れる男とは彼のためにあるような言葉だと思った。
「ね! アキあそこ!!!」
「うん!!!」
最初は曇っていたアキの顔も、時間を重ねていくごとに、どんどん晴れてきている。
こんな私が、アキを笑顔にしてる。
よかったって思う。
やっぱり私達の関係は崩れてないんだって、明日になればまた一緒に笑っていられるんだって、そう感じたから。
服を見て、カフェでお茶して、雑貨屋さんに行って、ご飯を食べて。
今までみたいに、いろんなことをした。
今までやってきたことに、デートって名前をつけるだけで、また新しいアキとの特別になる。
これからもずっとアキと特別を作っていきたい。
これからもずっと一緒にいて、同じ道を歩いて、幸せに老いて、アキと一緒に笑顔で死にたい。
そのためになら……。
それをアキが望んでなくても……。
◇
最後の場所は決めていた。
王都を一望できるここ。
二人で大切なことを決めた場所。
ここで改めて、アキに伝える。
私はそう決めていた。
二人で手を繋いで、そこに立つ。
私は意を決して、アキに話そうとする。
でもそれは、
「アキ、あのね………… わた」
「ハルはさ…………」
アキに遮られた。
そしてアキは、私からゆっくり手を離す。
「変わった…………よね」
そう言って少し寂しそうな顔をするアキ。
「え………………」
アキの顔を見る。
私は変わったのだろうか。
自分では何一つ変わってないって思う。
アキに頼ってばかりのダメな女。
それがハルという私。
「自分は変わってないって、そう思ってる?」
そう聞かれるから、
「思って………………る」
正直に答えた。
「ハルは変わったよ。それもすごくいい方向に」
またアキの寂しそうな顔。
どうしてそんな顔をするの?
「そう…………かな?」
「うん。簡単に自分では気づけないものだよ。でも、ずっと側にいた私にはわかる」
なぜ、今こんなことを言われてるのかわからなくて怖い。これからアキになにを言われるのか怖い。
「私はさ…………思ってることがあるんだ」
そう言って遠くを、王都をみるアキ。
「ハルって私がいなきゃダメだって思ってた」
「そうだよ! 私にはアキがいなきゃ…………」
必死に私にはアキが必要だって伝える。
「うん。ハルは今でもそう思ってるのかもね」
「……………………え?」
わからない。
アキがなにが言いたいのかわからない。
「でも、私はそうじゃない気がしてる」
「な…………にを………………」
なんでこんなことを言うのかわからない。
「私はね、私がハルの邪魔してるんじゃないかってそう思ってる」
「そんなことない!!!」
つい大きな声が出た。
「そんなことないそんなことないそんなことない」
言葉を思ってることを繰り返す。
「私にはアキがいなきゃダメなの、もう無理なの、もう嫌なの、アキのいない未来なんてない! アキのいない未来なんていらない!」
黙って聞いてくれるアキ。
刻印が輝く。
なんで今なんだ。
どうして、なんで。
ずるいってわかってる。
醜いってわかってる。
これをしたらアキは、
「ごめんね」
いつもみたいに抱きしめるしかなくなるって知ってる。
「ハルの気持ちを無視して言いすぎた」
「はぁ……は…………ぁ…………」
無理矢理息を整える。
「もう言わないから…………」
そう言ってアキに強く抱きしめられる。
私は卑怯者だ。
こうやってアキをずるい方法で縛りつける。
私はなにも、何一つあの時から変わってない。
5年前のあの日から、ずっと醜い化物のまま。
そして気づけば目の前には、
「よかったねハル。これでハルの思い通りにアキに甘えられるね!」
いつもは魔物を殺してる時にしか現れない。
現れてくれないはずだった。
「本当に良かったね。私じゃない人が見つかって」
でも、そこには間違いなくお母さんが立っている。
「醜い人殺しで化物のハルは、誰かに依存しなきゃ生きていけないもんね」
お母さんの言ってることはいつも正しい。
「そう…………だね………………」
私はそう呟いた。




