19.相談
「ねぇアキ…………?」
「なに?」
「今日は、なにをするの?」
「今日も出かける。ハルは好きなことしてていいよ…………」
「うん………………」
あの日から私達は少しぎこちない。
なにも変わらないって思ってた。
いつもみたいに帰って、いつもみたいに寝て、いつもみたいに起きたら、アキはいつも通りで、日常が続いていくって思ってた。
でもそうはならなかった。
日に日にアキとの会話は減っていった。
アキは私の行動に、干渉してこなくなった。
朝起きたら、アキはもう隣にはいない。
どこにいても、なにをしていても、なにも言ってくれない。
そして、私が魔物と戦っても、アキは止めない。
「アキ、いくね………………」
「………………うん」
それだけで、アキは私から手を離す。
あの時みたいに、取り乱すことはない。
私もアキもわかってる。
もう私は、アキの手を握ってなくても、どこにだって行けてしまうから。
私の心が気づいてしまった。
シキと協力して魔物を殺すことは、当たり前になっていた。
全て終わった後に、どうしようもなく震える手にも慣れてしまった。
これは私の演技なのだろうか。
ずっと求められてる私を演じてきたから、なにが本当でなにが嘘なのか、何もかも全てがわからない。
その感覚にすら慣れてしまった。
アキのためになるからって自分を言い聞かせて、また心を殺す。
作業のように、当たり前になってしまった。
そして、
「今日もたくさん殺したね!」
もういないはずの母に、こう言われることも当たり前のように受け入れている。
お母さんはいつも魔物を殺すと現れてくれる。
いや、私が作り出してる。
本当はそこに誰もいないってわかってる。
あれは私の弱さだ。
多分、あのお母さんは私の心が生み出しているんだろうってことも、私の弱さが見せている幻のようなものだってことも、頭では理解してる。
でも、
「うん……………………」
「それでいいよハル! それでこそ化物だ!」
お母さんとまた会話ができる。
過去の最愛の人がそこにいる。
お母さんは私を恨んでくれている。
それだけで救われたような気持ちになる。
私を貶してほしい。
私が傷つくような言葉を言ってほしい。
お母さんはきっとそう思ってるはずだから。
私がいなければ、幸せに生きているはずだから。
私なんか産まなければよかったって、そう思ってるはずだから。
私はお母さんに、私のことを恨んでいてほしい。
私を許さないでいてほしい。
だって私は、今でもあの時の私自身を恨んでる。
◇
「どうしたの? ハル?」
「シキに相談したいことが………あって……」
「アキのこと?」
「………………うん」
私はアキがいなくてもシキの家まで一人で来れる。
アキのためにここまできた。
このままにするのは嫌だ。
アキに嫌われるのは耐えられない。
現状、アキ以外に一番頼れる人に相談するしかなかった。
「なんか会話もぎこちなくて…………」
「うん」
「アキが朝、お仕事でどこかにいく時も、私が起きたらもういなくて………」
「アキの仕事?」
妙なところでシキが疑問を持つ。
「シキが頼んでるんじゃないの?」
「いや…… まぁ本当にたまにあるけど……」
どういうことなんだろう。
「毎日か…… 僕にはちょっと…… わからないな……」
「そう…………」
わからないことだらけだ。
でも、とりあえず今は置いておく。
「そうだね…………」
シキは考えてくれる。
「僕は正直、なんで二人が喧嘩してるのか、あまりよくわかってないんだ」
「うん………………」
それは私もよくわかってない。
なんでこんなことになってしまっているのか、わからない。
そもそも、これが喧嘩なのかどうかすら私にもわからない。
長考するシキ。
そうしたら突然、
「デート。してみれば?」
「え…………?」
シキはよくわからないことを言い出した。
余計怒らせるだけのような気がする。
「やってみないとわからないけど、アキって単純だからね」
長い付き合いだと聞いた。
シキにしかわからないこともあるのだろう。
そう考えたら少し、シキに嫉妬した。
「多分、ハルを嫌いになったとかじゃないと思うからさ、色々試して、話してみるしかないと思うよ」
「うん………………」
それはその通りだと思う。
「なんとなくの想像だけど、これはアキの中の問題な気がするんだ」
「アキの…………?」
そんなことあるのだろうか。
「多分ね。確証はないけど」
でも、シキがこう言ってる。
だから、
「やってみる」
とりあえずやってみるしかない。
考えていても答えは見つからないと思う。
「ごめんね。あんまり力になれなくて」
私は首を振る。
「そんなことない。ありがとう」
そう言って、少し別のシキと話してから家に戻る。
近くに来ると、家には光が灯っている。
アキが帰ってきてる。
急いで玄関を潜るとアキがいた。
「ハル? どこに行ってたの?」
アキにそう聞かれた。
久しぶりに私に興味を持ってくれたのかもしれない。
だから、
「シキのところ…………」
「………………ふーん」
露骨に不機嫌になるアキ。
正直、可愛いって思っちゃった。
そんなアキをみて覚悟を決める。
「ア、アキ!!!」
「なに? どうしたの? 大きな声出して……」
私は意を決して、
「デ、デ、デートを…… しませんか?」
「……………………は?」
アキをデートに誘った。
 




