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転生少女は間違える -アキを知ってハルになる-  作者: qay
3章

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18.間違ってない


 目が覚めた。

 夢を、みていた。

 あれが起きてすぐに夢だってわかるくらい、同じものを何回も何回も、みてきたから。

 気づけば、私が知らない天井。


「こ、こは………………」


 声が掠れてうまく言葉が出てこない。

 体を起こすと、そこは知らない部屋だった。

 

 久しぶりにあの夢をみた。

 

 あの部屋で私は毎日のように同じ夢をみていた。

 あの時は目覚めるといつも魔法の暴発を防ぐためになんとか感情を抑え込むことが習慣になってた。

 運命的な出会いをした日から、もう見ることのなくなってた夢。

 久しぶりにみた今も、心がとても穏やかであの時のように何か苦しいという感覚がない。


 少し怖いけど、周りを見渡す。

 あの時、見えていた人達はいない。


「アキ?」


 横を見ると、アキが私の右手を握りながらベットに突っ伏してる。


「………………ハ、ル?」


 やっぱりアキは寝起きでも可愛い。


「おはよう、アキ」


「…………ハル! 大丈夫!? 痛いところない? 体のおかしなところは? それから、それから…………」


「落ち着いてアキ…………」


 急に慌てるアキも可愛い。

 でも、腕や顔には白い布と包帯。

 私が傷つけてしまったもの。

 鮮明に思い出せる。


「落ち着いて?! ハルが何日寝てたと思ってるの!」


 そんなに時間が経っているとは思っていなかった。


「そんなに寝てた?」


 素直に質問する。

 私が体感してる時間はそんなに長くない。


「3日だよ! もう起きないんじゃないかって……」


 そんなに寝ていたんだ。

 

 でも今は、


「そんなことはどうでもいいよ…………」

 

 そう、私がどうとかどうでもいいことだ。


「そ…んな…………こと………………?」

 

「アキ? ごめんね。あの時、言うこと聞かなくて、こんなに迷惑かけて 」


 まずはアキに見捨てられないように謝らなきゃ。

 あの時は、気を失ってできなかった。

 その時のことだけじゃない。

 私が寝てる間にたくさん迷惑をかけたはずだ。


「アキのためにあの時はできると思ってた。魔物は倒せたし、最初はうまく言ってた気もするけど……」


「え……………………?」


「結果がこれじゃ、なにも意味ないね………」


「な、にを………………」


 おかしなことを聞くアキ。

 私にとっての優先順位はもう決まってる。


「何って、約束を破ったこととか、それに暴れてアキの頬につけちゃったその傷とか…… 謝って許されることじゃないよね………………」


 そう、アキの手を煩わさせてしまった。


「本当にごめんなさい………… 次はこんなことないように、アキのために、これ以上失望されないように頑張るから!」


 そう言って無理矢理、笑顔を作る。

 アキの信用をこれ以上失いたくない。


「ーーーーーーーっ!!!」


 それは突然だった。

 急に視界が動く。


「った……………………」


 私はアキに今まで寝ていたベットに押し倒され、馬乗りになられる。

 左右の手は、それぞれ掴まれていて抵抗できない。

 

 そして目の前にはアキの怒りに、悲しみに満ちた顔。


「どうしたのアキ?痛いよ……」


 すごい力で握られる腕。


「なんで!!!!!!!」


 鼓膜が破れるんじゃないかってくらい大きな声。

 私はアキのこんな声は聞いたことない。


「なんで…………………………」


 さっきとは打って変わり、弱々しくなるアキの声。

 そして、


「え……………………?」


 アキの涙が私の頬を伝う。

 驚きと戸惑いで脳の処理が追いつかない。


「もっと…… もっと自分を大切にしてよ…………」


 それはしているはずだ。

 アキの側にいるために、考えて行動してる。

 そのはずだと自分では思ってる。


「今は、私のことなんてどうだっていい!!! ハルは三日も起きないくらいの何かがあって、私なんかより、よっぽど酷く深く傷ついているんでしょ!?」


「それ……は…………」


 でも、私が優先するのはアキのことだよ。


「それなのに、起きてなにを言うかと思えば、私のことばかり………………」


 それはそうだ。

 私がこれまでもこれからも優先するものは変わらない。


「だって………………」


「だってじゃない!!!」


 説明をしたいけど、それすら許してもらえない。


「もっと自分のこと考えて!!」


 してる。アキの側にいるためにはどうすればいいのかいつも考えている。


「もっと自分のことを大切にして!!」


 してる。アキの次にだけど、私は私も大切にしてるはず。


「私のことよりハル自身のことを一番に優先して!!」


 それは無理だ。私はもう決めたから。


「ちょっとは、私のことも考えてよ!!」


 してる。アキが与えてくれるものを、いつか返すためにどうしたらいいか考えてる。


「私がどんな気持ちでハルを見ているか、ハルはなんにもわかってない!!!」


「え………………………………?」


 これだけはいくら考えても、答えは見つからない。

 私はアキがハルが求めてることを、してほしいって言ったことをしてきたつもりだったから。

 アキのことはわかってるつもりだった。



「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 二人とも喋らない時間が続く。

 前のめりになって、私の顔を見ながら叫んでいたアキ。今は私の腕を離して俯いている。

 表情が見えない。

 アキの涙が、私の胸付近に当たる小さな音、そして呼吸の音だけが部屋に響く。

 時間が止まってるようにも感じる。


 ひと通り、言いたいことは言い切ったのだろうか。

 アキの次の言葉を待つ。


「はぁ……………………はぁ……………………」

 

 落ち着いてきたのだと思う。

 呼吸の感覚が空く。

 表情は見えない。

 でも、アキの涙が私の頬を濡らす。


「どうして……こんなことになっちゃったのかな」


「え……………………?」


 突然、そう言った。

 アキがなにを言ってるのかよくわからない。

 そしてアキの顔がゆっくりと上がる。


「私は、私はどこで間違えちゃったんだろう………」


 私をみるアキは、泣きながら笑っていた。


 

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