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転生少女は間違える -アキを知ってハルになる-  作者: qay
3章

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16.ここにいる


 ここからがスタートだ。


 そんなかっこいい宣言をしていた私は、誕生日が過ぎても相変わらず暇を持て余している。


 いつものように窓から世界を見る。

 伸ばした手の先にはアキから貰ったブレスレット。

 アキの髪色と瞳の色が装飾で入っている。


「うへっへっ…………」


 見るたびに気持ち悪い笑いが止まらない。

 そして、窓辺にはクレマチス?と言うの花を飾っている。

 花に詳しくない私はどんな花か、よくわかっていないけど、綺麗だとは思う。


 これはシキからの誕生日プレゼントだ。


「ハルにぴったりだと思う」


 シキにそんなことを言われた。


 その日のうちにアキが買ってくれていた花瓶に花を生けて、窓辺に飾った。

 太陽によって綺麗な花はより一層綺麗に見える。


「おかえりなさい! アキ!!」


 いつものように抱きつく。


「ハル、明後日には魔物がくるらしい」


 アキがそう言った。

 空気が変わる。

 気を引き締める。


「わかった! 大丈夫だよアキ」


 でも、なるべく明るく振る舞う。


「うん……………… じゃあご飯食べようか!」


 この話になるといつも顔が曇るアキ。できるだけそれを明るくすることができるように振る舞う。


 これでいい。アキは笑っていて欲しい。

 私ごときのことが原因で、それを曇らせるなんてあってはいけない。



 ◇



 いつもと同じように、後ろで見てるだけ。

 いつもと同じように、アキに護られてるだけ。

 今日も私の出番なんてなくて、いつも通り、最強のシキがなんとかして、馬車でアキと楽しくお話ししながら帰る。

 

 今日もそれだけのはずだった。


 数が多すぎる。

 聞いていた数の倍は間違いなくいる。


「ヤバい………! 二人とも下がれ!!!」


 そうシキが叫んだ。


 こちらにも魔物が迫ってくる。


「ハル! はやく!!!」


 私はその場から動かない。


「何してるの?! いくよ!!!」


「私もいく」


 私は求められていることをする。

 だから私はアキの手を振り払って走った。

 アキに追いつかれないように。

 

 これ以上は決心が鈍る。

 だからこれ以上はアキの言葉は聞かない。


「待って! ハル! ダメ!!!」


 アキの静止を振り切って走る。


「シキ!!!!」


 私は彼に向かって叫んだ。


「いいよ。ハル。それでいいんだ」


 彼は本当に嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。

 


 ◇



 私は持てる技術を全て使って魔物を殺した。

 こんな化物をアキに近づけさせるわけにはいかない。そう思っていた私は、化物を殺している間、心が晴れるような感覚すらあった。


 気づけば、私達二人の周りには何もない。

 私達は魔物を一体も逃すことなく始末した。

 久しぶりだったけど、上手くやれた。


 なんか気持ち悪いと思ったら、身体中が血まみれになっている。

 この調子だと、白い私の髪の毛も真っ赤だろう。

 興奮状態で全く気づかなかった。


「ハル!!!」


 最愛の人の声に体が震える。

 遠くから駆け寄ってくるアキ。

 どう謝ろうか。そう考えながら振りむく。

 アキが走ってくるのが見える。


「まだ殺すの?」


「え?」


 咄嗟に振り返る。

 でも、誰もいない。


「また見捨てるんだ?」


 また声がする。

 その方向を見るために振り返る。

 やっぱり、誰もいない。


「ハル?」


 不審な行動をする私にアキが戸惑っている。

 そのアキの声もすごく遠く感じる。

 

「私を見殺しにしたくせに」


 また声がする。

 誰もいないはずなのに、声が次々と私を責める。


「あの時、私を見捨てたくせに」

「私達を助けてくれなかったのに」

「お前がはやく来れば、私達は死ななかったのに」

「お前がもっと傷つけば私達は死ななかったのに」

「なんで、お前が生きていて私は死んでるの?」

「人を殺しておいて、よく生きてられるね」

「お前が死ねばよかったのに」

「お前が殺されればよかったのに」


 声が止まない。

 後ろから声がして、振り返っても誰もいない。

 私は怖くなって、冷静さを失ってしまう。


「やめて!!! やめてよ!!!」


 声を遠ざけたくて、耳を塞いで暴れる。


「いや!いやだ!!!」

 

 誰かを引っ掻く。

 殴って傷つける。

 

「ハル! ねぇハル!!!」


 誰かに呼ばれて、抱きしめられる。

 間違いなく、アキ。

 もたれかかる私を支えてくれる。

 そして私は心を落ち着ける。


 私のせいでアキの綺麗な顔と腕から血が出てる。

 アキの顔に触れようと右手を伸ばすと、アキから貰った、大切なブレスレットが目に入る。

 謝らなきゃ、

 そう思ったその時、


「次はその娘?」


 今までは、全く知らない人の知らない声だけだった。

 

「その娘も傷つけるの?」

 

 でも、この声には間違いなく聞き覚えのある。


「また、裏切るの?」


「違う…………」


 咄嗟に否定する。

 忘れたくても、忘れられない。

 振り返りたくても、恐怖で背後を見れない。

 

「また、嘘をつくの?」


「違う!!!」

 

 私が愛した人。


「ハルはいつも自分だけが可愛いもんね」

 

「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」

 

 私を愛してくれていたって信じている人。


「はぁ、はぁっ………………」


 息が上手く吸えない。

 呼吸が浅くなり、息が苦しい。

 涙が自然に出てくる。

 

「また? 誤魔化すのも演じるのも言い訳も、昔から得意だったもんね」


「ひっ、はぁ……………………」


 言葉が続かない。


「いや、前世からそうだったのかな? 私なんて本物じゃなかった? そっか。あなたにとっては二回目のことだもんね」


「!!!! ちが、………………」


「だからあんなに簡単に私を殺せたんでしょ?」


「ち、ちが…………………………」


「よかったね。また甘えられる人ができて」


「は……っはぁ……はぁ……っ」


 言葉に詰まる。

 言葉が出てこない。

 息が詰まる。


 そして、1番言われたくない言葉を、1番言われたくない人に言われる。


「そのハルの甘えで、」

 

 私はゆっくりと振り返る。

 そこにいたのは、


「私みたいに、次はその娘を殺すの? 」


 私が人生を奪ってしまった大切だった人。


「ね? 化物のハル」


「お、お母さん………………」


 私が救えず、奪ってしまった人達。

 そして、二回目のお母さんがいた。

 

 私は意識を保っていられず、気を失った。


 

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