16.ここにいる
ここからがスタートだ。
そんなかっこいい宣言をしていた私は、誕生日が過ぎても相変わらず暇を持て余している。
いつものように窓から世界を見る。
伸ばした手の先にはアキから貰ったブレスレット。
アキの髪色と瞳の色が装飾で入っている。
「うへっへっ…………」
見るたびに気持ち悪い笑いが止まらない。
そして、窓辺にはクレマチス?と言うの花を飾っている。
花に詳しくない私はどんな花か、よくわかっていないけど、綺麗だとは思う。
これはシキからの誕生日プレゼントだ。
「ハルにぴったりだと思う」
シキにそんなことを言われた。
その日のうちにアキが買ってくれていた花瓶に花を生けて、窓辺に飾った。
太陽によって綺麗な花はより一層綺麗に見える。
「おかえりなさい! アキ!!」
いつものように抱きつく。
「ハル、明後日には魔物がくるらしい」
アキがそう言った。
空気が変わる。
気を引き締める。
「わかった! 大丈夫だよアキ」
でも、なるべく明るく振る舞う。
「うん……………… じゃあご飯食べようか!」
この話になるといつも顔が曇るアキ。できるだけそれを明るくすることができるように振る舞う。
これでいい。アキは笑っていて欲しい。
私ごときのことが原因で、それを曇らせるなんてあってはいけない。
◇
いつもと同じように、後ろで見てるだけ。
いつもと同じように、アキに護られてるだけ。
今日も私の出番なんてなくて、いつも通り、最強のシキがなんとかして、馬車でアキと楽しくお話ししながら帰る。
今日もそれだけのはずだった。
数が多すぎる。
聞いていた数の倍は間違いなくいる。
「ヤバい………! 二人とも下がれ!!!」
そうシキが叫んだ。
こちらにも魔物が迫ってくる。
「ハル! はやく!!!」
私はその場から動かない。
「何してるの?! いくよ!!!」
「私もいく」
私は求められていることをする。
だから私はアキの手を振り払って走った。
アキに追いつかれないように。
これ以上は決心が鈍る。
だからこれ以上はアキの言葉は聞かない。
「待って! ハル! ダメ!!!」
アキの静止を振り切って走る。
「シキ!!!!」
私は彼に向かって叫んだ。
「いいよ。ハル。それでいいんだ」
彼は本当に嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。
◇
私は持てる技術を全て使って魔物を殺した。
こんな化物をアキに近づけさせるわけにはいかない。そう思っていた私は、化物を殺している間、心が晴れるような感覚すらあった。
気づけば、私達二人の周りには何もない。
私達は魔物を一体も逃すことなく始末した。
久しぶりだったけど、上手くやれた。
なんか気持ち悪いと思ったら、身体中が血まみれになっている。
この調子だと、白い私の髪の毛も真っ赤だろう。
興奮状態で全く気づかなかった。
「ハル!!!」
最愛の人の声に体が震える。
遠くから駆け寄ってくるアキ。
どう謝ろうか。そう考えながら振りむく。
アキが走ってくるのが見える。
「まだ殺すの?」
「え?」
咄嗟に振り返る。
でも、誰もいない。
「また見捨てるんだ?」
また声がする。
その方向を見るために振り返る。
やっぱり、誰もいない。
「ハル?」
不審な行動をする私にアキが戸惑っている。
そのアキの声もすごく遠く感じる。
「私を見殺しにしたくせに」
また声がする。
誰もいないはずなのに、声が次々と私を責める。
「あの時、私を見捨てたくせに」
「私達を助けてくれなかったのに」
「お前がはやく来れば、私達は死ななかったのに」
「お前がもっと傷つけば私達は死ななかったのに」
「なんで、お前が生きていて私は死んでるの?」
「人を殺しておいて、よく生きてられるね」
「お前が死ねばよかったのに」
「お前が殺されればよかったのに」
声が止まない。
後ろから声がして、振り返っても誰もいない。
私は怖くなって、冷静さを失ってしまう。
「やめて!!! やめてよ!!!」
声を遠ざけたくて、耳を塞いで暴れる。
「いや!いやだ!!!」
誰かを引っ掻く。
殴って傷つける。
「ハル! ねぇハル!!!」
誰かに呼ばれて、抱きしめられる。
間違いなく、アキ。
もたれかかる私を支えてくれる。
そして私は心を落ち着ける。
私のせいでアキの綺麗な顔と腕から血が出てる。
アキの顔に触れようと右手を伸ばすと、アキから貰った、大切なブレスレットが目に入る。
謝らなきゃ、
そう思ったその時、
「次はその娘?」
今までは、全く知らない人の知らない声だけだった。
「その娘も傷つけるの?」
でも、この声には間違いなく聞き覚えのある。
「また、裏切るの?」
「違う…………」
咄嗟に否定する。
忘れたくても、忘れられない。
振り返りたくても、恐怖で背後を見れない。
「また、嘘をつくの?」
「違う!!!」
私が愛した人。
「ハルはいつも自分だけが可愛いもんね」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」
私を愛してくれていたって信じている人。
「はぁ、はぁっ………………」
息が上手く吸えない。
呼吸が浅くなり、息が苦しい。
涙が自然に出てくる。
「また? 誤魔化すのも演じるのも言い訳も、昔から得意だったもんね」
「ひっ、はぁ……………………」
言葉が続かない。
「いや、前世からそうだったのかな? 私なんて本物じゃなかった? そっか。あなたにとっては二回目のことだもんね」
「!!!! ちが、………………」
「だからあんなに簡単に私を殺せたんでしょ?」
「ち、ちが…………………………」
「よかったね。また甘えられる人ができて」
「は……っはぁ……はぁ……っ」
言葉に詰まる。
言葉が出てこない。
息が詰まる。
そして、1番言われたくない言葉を、1番言われたくない人に言われる。
「そのハルの甘えで、」
私はゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、
「私みたいに、次はその娘を殺すの? 」
私が人生を奪ってしまった大切だった人。
「ね? 化物のハル」
「お、お母さん………………」
私が救えず、奪ってしまった人達。
そして、二回目のお母さんがいた。
私は意識を保っていられず、気を失った。




