14.暇
アキのために魔物を倒す。
そう決めた私。
これから厳しい時間が待っているのだろう。
辛いことを辛くないって誤魔化して、アキとシキ、そして周りが求めるハルを演じていく。
我慢して、アキとの将来を手に入れるために。
そう覚悟していた。
そんな私を待っていたのは、
「はぁ………… 暇すぎる…………」
何もない、時間を持て余す日々だった。
気づけば、もう数ヶ月経っていた。
考えてみれば当然の話。
そもそも毎日、魔物が王都にやってくるわけじゃない。むしろ、頻度的には月2回ぐらいあれば多い方らしい。
それはそうだろう。もしそんな攻撃されてるなら、アキとシキの2人、私を含めても3人だけにやらせるわけがない。
その出現も数日前から事前にわかっていて、私は後ろでただ見ているだけ。
私は前よりも、何もしていない。
日々の生活にも変化があった。
いつも、アキが一緒にいてくれたわけだけど、前のように昼間から夕方までは、どこかに出かけてしまうようになった。
アキはそもそも、私が使い物になるまで特別につきっきりでいてくれただけ。すでに家の庭までは1人で移動できるようになった。そして短時間で尚且つ、アキとシキしかいない場所であれば、アキの手を離して魔法を使うことができる。
そしてなんと、家の門越しであれば、
「こんにちはハルちゃん」
「こ、こ、こん、こ、こ、こ、こんに、こんにちは」
アキがいなくてもこんなにも上手に他人と喋れるようになった。私の基準では劇的な成長を遂げていた。
しょぼい、やっとかよって思う人もいるだろう。
でも、私にとっては劇的な進歩だ。
アキとシキがいなければ成し遂げることはできなかった。
これならもうほっといても、ある程度は問題ないとアキも思ったのだろう。
自分で言ってて、色々と悲しい。
必然的に一人でいる時間が増えた。
アキとは一緒に暮らしているし、シキとは一週間に一度は必ず会って話をする機会を貰ってる。
でも、現在の私の交友関係はこれで終わりだ。
流石に寂しすぎる。
あの4年間では、常に同じことをずっと何周もぐるぐる考えていたけれど、いつも結論は同じ。
でも今は、一人で何かを考える時間がもったいない。相談をして決めた方がいい。
私はそう考えられるようにもなっていた。
だから、私は意を決して
「私もついていく!」
アキにそうお願いしてみたところ。
「うーん………… 邪魔だからいらない!」
私は笑顔でそう返された。
◇
ともかく、今の私は家事をしながらアキの帰りを待つ主婦状態。
そして私にとって家事は一つを除いて、とても簡単な作業だ。
2人で住むには大きすぎる家。普通なら1人でこの家を管理するなんて到底不可能だろう。
これを言ったら色んな人に怒られそうだが、生活にも役立つ魔法を使える私にとっては、この家の大きさであっても、家事の大抵がすぐに終わってしまう。
洗濯物を洗って干して乾かす。私はこれを洗濯物に一切触らずにできるようなった。
掃除も歩いて回れば、残さずゴミを集められる。
庭の管理、手入れも簡単だ。
その程度は特別な意識しなくてもできるくらい、私は器用に魔法を扱えるようになっている。
そんな完璧な主婦である私にもできないことがある。それは日々の生活において、最も重要な時間の一つだと思う。
私は料理ができない。
正確には美味しくないだけで食べれるものは作れる。現代っ子の私は前世から料理なんてものは全くしてこなかった。
大学の時は親友に毎日のように作ってもらい、社会人になった時は実家で母に作ってもらっていた。
私のいた前の世界では女の子でも、料理を作れる人の方が珍しい…………はずだ。そうだよね?……ね?
ともかく私はまともに料理が作れない。
アキに一回作った時、
「…………美味しくない」
冷たい目でそう言われた。
ちょっと興奮したから、これからも作って食べさせようとも思ったが、自分の料理を自分で食べたくないからやめた。
でもそれを解決する必要はない。なぜならアキの作る料理は本当に美味しいからだ。
アキは本当になんでもできる。
私はアキが羨ましいのと同時に、誇らしい。
だから今日も、
「ハル!ただいま」
「おかえり!!! アキ!!!」
そう言って今日も帰ってきたアキに抱きつく。
「ねぇねぇ。今日のご飯は?」
「うーん。今日はね………………」
毎日、アキが作るご飯を食べて、毎日、家事をしてアキのことを思いながら帰りを待つ。そして時々、魔物を倒すシキの後ろに立つ。
なんだかんだ言っても私は今の退屈な日常が好き。
 




