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13.シキ


 魔物がくるという知らせは数日前から聞いていた。

 

 私達に、詳しくは教えられない仕掛けとやらから得た情報と、これまでの経験から、おおよそどの程度で魔物が到達するか予測できるらしい。

 

 そしてシキに、今日は見てるだけでいいと言われていた私達は離れて戦いをみることになっている。


 アキの魔法で私達の前には見えない壁があるらしい。私には全く見えていないからそう言われてもよくわからない。

 そもそも私はアキの魔法についてよく知らない。

 話したいようには見えなかったから聞いていない。


「ハル。くるよ」


 余計なことを考えていると、急に遠くからなにかが近づいてくる大きな音が聞こえる。

 恐らく、これから久しぶりの魔物と対面する。

 そう思って身構える。

 でも、私は魔物を見ることができなかった。

 

 魔物らしきものが見えた瞬間、すべて砕け散った。木々に血飛沫が降り注ぎ、周辺が真っ赤に染まる。私は目の前で起こった光景から、一瞬で悟る。

 

 彼に私の力なんて必要ないのでは?

 そう思っていたら彼が私たちの元まで戻ってきて、


「言ったでしょ? 傷つけさせないって」


 そう言った。

 いつもと同じように笑う彼は少し怖かった。


 

 ◇


 

「大丈夫だった? 気分は悪くない?」


 シキはそう言うが、


「………………大丈夫」


 むしろシキの強さに呆気にとられて、それどころではない。


「ハルは色んな意味で気分が悪そうですよ。シキ様、少し張り切りすぎでは?」


 アキがそうシキを嗜める。


「ハルに安心してほしいんだ。僕がいれば魔物程度は全く怖くはないってね」


 眩しい笑顔でそう言われると何も言えない。


「あれはなんという力なの?」


 思っていた疑問を正直に口にする。

 何が起こったのか全くわからなかった。


「そうだね…… なんで説明しようか…………」


 悩んでいるシキにアキが、


「その力がどれだけ馬鹿げているか、ちゃんと説明してあげてくださいよ。ハルが怖がってる」


 そう言って説明を促す。

 あんなものを見て、怖がるなっていう方が難しい。


「簡単に言えば、何もないところから鉄を生み出して、自由に操る魔法だよ」


 私はそれを聞いても、どうしてあんな光景を生み出せるのかさっぱりわからない。

 そもそも、攻撃に使うより、もっと役立つ使い方がありそうだとも思う。


「そして今、見せたのは小さな鉄の塊を大量に作って、それを相手に向かって打ち出して攻撃してる」


 どれほどの速度でぶつければあんな粉々に相手を砕けるのだろう。


「小さければ小さいほど、速度を上げられるし、操れる数も莫大に増える」


 だから、あれだけの魔物を瞬殺できたんだと理解できた。


「でも、不便な魔法だ。あれだけ小さければ、莫大な数を作れるし、目で追うことが難しいくらいの速度で操れる。でも、剣くらいのサイズは一度に一本くらいしか維持できないし操れない。それに動かした時の速度も極端に遅くなる。そして、最も重大な欠点は、時間が経つと跡形もなく消えて、維持することができないということ」


 私の疑問はすぐに解消される。色々な使い道、それこそ革命的な使い方もできるはずだけど、消えてしまうならそれは無理なのかもしれない。


「それに、僕はハルのようにほぼ無制限で魔法を使えるわけじゃない。考えて使えばほとんど起きないことだけど、作るものが大きくなればなるほど限界が早まるし、限界を迎えたら何もできなくなる」


 確かに私は幼少期にしか限界を迎えたことなんてない。特訓している時も同様だ。

 私の仕事が段々と見えてくる。


「私達には魔物を引き寄せることができる道具がある」


 それが詳しくは教えられない仕掛けというわけだ。

 そんなものがあれば、シキの力、そして私の魔法を使えば一網打尽にできる。そういうことなんだろう。


「詳しくは…… ごめん。話せない。けど、それを使うことで、王都に向かう魔物を誘導して独占できるし、数も大体は把握できる。それをしていいと、王に許可も貰ってる」


 詳しく教えてもらえないのは不満だが、しょうがないとも思う。これはシキの切り札中の切り札だと思うから。


「私達に失敗は許されない。今でも数は増える一方だ。まだ全然余裕はあるけど、これからどうなるかなんて誰にもわからない」


 集めすぎてしまってここで処理できなかったりすれば最悪の場合、国が滅ぶ可能性がある。

 一気に責任が重くなる。


「こんな曖昧な説明で協力をしてほしいなんて、不信感を持たれてもしょうがないと思ってる。でも僕もアキも、もう引けないところまで来てしまっている。何よりアキの盾とハルの矛が後ろにあれば、私はより安心できる」


 そう言って、シキは私に手を差し出す。

 アキはずっと黙ったままだ。


「だからハルの力を貸してほしい」


 でも、悩む余地はない。


「わかった……」


 戸惑いながらも、手を握り返す。

 隣には不安そうに私の顔を見るアキ。

 でも、アキのために手を貸す。


「ハル………… 僕は王になりたいんだよ」


 シキはそう言う。

 これもアキの願いの一つだから。



 ◇

 


 帰り道、いつもの馬車でいつものようにアキと話す。


「すごかったね。シキの魔法」


 私はアキの腕をいつもより力強く抱きしめる。


「そうだね」


 少し、いつもより元気がない?

 そう感じたが、アキは話を続ける。


「シキ様はすごいよ。なんでもできる特別な人。だから私は……………………」


 その先をなかなか言わないアキに、


「私は?」


 私は改めて聞く。


「んーん。やっぱなんでもない」


 アキは答えなかった。


「それよりもハル!今は、楽しい話をしよう!」


「わかった!」


「今日は何を食べる?」


「そうだね〜……… アキの好きなもの!」


 アキは無理矢理、いつもの幸せな日常へと戻す。

 

 これはアキにとって楽しくない話なんだ。

 私はそれを知ってしまった。





本日は後2話の更新をします。

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