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10.はじめまして


 同じような幸せな毎日を過ごして、数週間たった。

 今日の私達は知らない大きな家の知らない部屋にいる。


 あの後、他人と会話をする機会を増やした。

 言葉に詰まりながら、挨拶をする。

 どれが欲しいか言葉で伝えて、ものを買う。

 そして、目を見てお礼を言う。

 それができるだけで、アキは褒めてくれる。

 

 人混みの中を歩いて、王都を散策することもできた。でも、アキと手を繋ぎながらでないと、まだ人に近づくのは怖い。

 やっぱり、これは本当に怖いんだなって自嘲気味に心の中で笑う。


 でも、当たり前のことを当たり前にできるようになっていく私をみて、アキはついにシキという人に会わせてくれるらしい。


 だから今日、私達はここにいる。


 これから私もお世話になる人。

 どんな人なのか純粋に気になる。


 部屋がノックされて、アキが返事をする。

 緊張で体が強張る。

 そうしたらアキが小声で、


「私の口調や態度がちょっとだけ変わるけど、戸惑わないでね。あと失礼のないように」


 って言ってきた。


 ドアがゆっくりと開く。

 ドアの方向に目線を向ける。


「やぁ、はじめまして私がシキです。今後ともよろしくね」


 目を奪われた。

 そもそも、男の人だとは思っていなかった。

 綺麗な金髪に碧眼、そしてその容姿。

 前世も含めて、今まで会った男性の中で、間違いなく1番かっこいい。

 息が止まるような衝撃を受けた。


「…………………………………………」


「ハル? ご挨拶を。これまで私達を助けてくれた方に失礼ですよ」


 アキの手が強く握られて、現実に引き戻される。

 それと話し方が最初のお嬢様モードだ。


「あ、あ、あ、あの………… ハルと申します…………」


 いろんな意味で緊張して、いつもより噛み噛みだ。


 「うん! よろしくね。あっ、こんな話し方でもいい? 堅苦しいのは嫌いでさ」


「だ、大丈夫です!!!」


 食い気味にそう言った。


「アキにもそう言ったんだけど、無理みたいでさ」


「当たり前です。 恩人ですから」


「この調子でね…… 気にするなって言っても無駄ってわかったからさ。ハルは気楽にシキって呼んで! 呼び方もハルでいい?」


「いいです! お願いします!!!」


 そう言ったらアキは、怖い笑顔で私を見ながら手を強く握ってきた。

 



 ◇




 それから、これからの三人でことについて話した。


「まずはハルにやって欲しいことだけど…………」


「はい………………」


「やっぱり、魔物を倒すための協力を、できるならしてほしい。手に追えないってわけじゃないんだけど、量は本当に多い。しかも僕達はそこを評価してもらってる。君がいればより、その評価は高まるはずだから」


 それはそうだろうと思っていた。

 覚悟もしている。

 アキのためにならなんでもやるって決めたから。


「直ぐにとは言わないよ。君の話は聞いてる。嫌なことを強要なんてしたくないし、するつもりもない。それ以外の部分で活躍したとしても、君の力は十分に頼りになるからね」


 そう言ってくれるこの人は本当に優しい。


「大丈夫です…………」


「そうかい?」


「はい。 アキのためにならなんでもやります」


 それに、この人は王に相応しいのかもしれない。

 少しだけアキこの人を信頼する理由がわかった気がする。

 少し話しただけ。

 私は何もわかってないのかもしれない。

 でも、アキが信用するのもわかる気がしたから、信じてみようって思った。


「わかった。でも、まだ本格的に事を始めるのはまだはやいと思う。ちょっと時間を置きたい。まだアキの手を離せないとも聞いてるからね」


「はい………………」

 

 それはそうだ。

 外で手を離すのはまだ怖い。

 何かの弾みで、外れてしまうかもしれないから。


「とりあえず、手を少しの時間でも離せるように、王都の外で練習しよう。アキがいれば大丈夫だと思うし、僕もハルの力になれると思う」


「はい! シキ様!! お願いします!!!」


「様はいらないよ? 呼び捨てで呼んでほしいな」


「はい! シキ!!!」


 こんなイケメンに私ごときが協力してもらえる。

 しかも、名前を呼び捨てにする権利をもらった。

 前世では考えられないような出来事で純粋に嬉しかった。


「ハルは危ないので、シキ様はできるだけ離れていてくださいね。お怪我があってはいけないので……」


 これまで話に全く割り込んでこなかったアキが唐突に辛辣なことを言う。


「……………………」


 私はショックで黙ってしまう。


「あからさまに不機嫌な顔して、やけに口を出さないなって思っていたら、一言目がそれかい?」


 笑いながら言うシキ。


「本当のことです」


「……………………」


 さらにダメ出しされる私。

 

「まぁ、そう言うことにしとくよ」


「なっ………………!」


「君は昔から変わらないね。あの頃のままだ」


「……………………わかってますよ」


 私にはよくわからない会話のまま、とりあえず手を短時間でも離して、魔法が外でも使えるように練習することが決まった。

 

 日程については後日、準備があるとのことで今日はお開きとなった。

 帰り際にシキは、


「本当に焦らなくていい。それは君のためにも僕達のためにもならないからね」


 そう言って笑顔で送り出してくれた。

 


 でも、帰りの馬車も寝る前も、今日のアキはあまり話してくれなくて不安になった。

 アキの恩人の前で、少し調子に乗ってしまった。

 明日になったら謝ろうと思った。

 

 でも、次の日には何事もなかったかのように明るいアキに戻っていて、いつもより少し長く王都を歩いて楽しんだ。

 

 昨日はどうしてって聞く勇気は私にはない。

 

 

 

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