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「はやく逃げなさい!!!」
私を必死に逃がそうと、目の前で死んでいく人達。
そんな状況でも、全てを持ってるはずの私は、泣いて這いつくばりながら、赦しをこうことしかできなかった。
◇
私は恵まれていたと思う。
優しいお父様とお母様に大きなお家。
橙色の髪と青い瞳。
誰からも羨ましがられ、褒められた容姿。
家族のような従者達。
いっぱいの友達。
女でありながら何をやらせても負けなしの才能。
そして神から授かったとしか思えない、大切な人を護ることができる大きな力。
それを証明する背中にある刻印は、直接見みることができないけれど、私が特別であることの何よりの証明だった。
生まれてきてから10年、何かで負けたことなんてなかった。
私は全てを持って生まれたのだと思っていた。
この優しい日常が永遠に続く。
私の力があればなんでも守れる。
どんな人でも救うことができる。
傲慢でわがままで世間知らずな、愚かな人間。
それが何もかもが幼い私。
私は王都に行くと決まった。
特別な役目を与えられて王都に行くと知った時は誇らしかった。
最後になるかも知れないと、家の人達ほぼ全員と旅行をすることになった。
馬車も新しいものを王都から借りて、盛大な旅行。
楽しい時間は一瞬で過ぎていく。
帰り道、両親と一緒の馬車。
様々なことを本音で話してくれた。
私の記憶にないほど、幼い日々の出来事。
今までの思い出を家族で語り合った。
そして、本当はまだ行かせたくないこと。
私を一人にすることが心配で、眠れない日々が続いたという両親の本音。
本当にいろんなことを話してくれた。
でも私が娘で誇らしいと、最後は泣きながら抱きしめてくれた。
本当に暖かい時間。
その時、魔物に襲われた。
私は馬車から飛び出した。
私がこの人達を守るんだ。
私じゃなきゃできないことがきた。
最後の恩返しだと、そう思った。
けれど、目の前の現実に押しつぶされた。
とてつもない数の魔物に圧倒されて動けなくなった。
そして、次々と私を守って大切な人達が死んでいく。
家族のように大切な従者。
最愛のお父様とお母様は、気づいた時には殺されていた。
私はどうしようもないほどに、無力なんだと思い知らされた。
この人達よりも大きな力を持っている。
この人達を護るのは全てを持っているこの私。
そんな私は、護っていると思い込んでいた人達に、護られながら無様に這いつくばることしかできなかった。
私が持っていると勘違いしていたものは、本当は持っていないと突きつけられた。
全部、全部奪われた。
私は何もかも失ってしまった。
そして残されたのは無力で無様な私だけ。
まだ10年しか生きてない。
こんなところでは死ねない。
そんな思いも、もう全て涙と一緒に流れてしまった。
私は目を閉じてその時を待つ。
その瞬間、私を包み込むように風が吹いた。
「もう大丈夫」
笑いながら目の前に立つ少女。
おそらく私より幼いであろう小さな身体に、視線が釘付けになる。
一瞬にも永遠にも思えるような時間から抜け出して、周りを見る。
気づけば目の前にあった脅威が、全てなくなっていた。
混乱する私に、彼女は笑いながら微笑む。
小さな身体で抱きしめられる。
「頑張ったね……」
そう言って私と目線を合わせようとしゃがむ彼女。
私は安心と後悔でぐちゃぐちゃになり、涙が込み上げる。
「もう大丈夫だから泣かないで……」
どうしようもなく流れて止まらない。
そんな私の涙を拭って彼女は言った。
「笑って!」
彼女はこの悲惨な光景をみて、状況を理解している。
本当の強さというものを知った。
私は偽物だった。
本物である彼女は、不器用ながらもなんとか笑わせようと、必死に試行錯誤する。
「あれ〜でないな〜。芸には自信あるのに〜!!」
しばらくあーでもない、こーでもないと何かをしようとする。
「なんにもできない!!!」
最終的に彼女はなにかを諦めた。
そして、彼女の小さな手が私の顔を包み込み、左手の人差し指で涙を拭われて、右手の親指で口角を無理矢理持ち上げられる。
「そんな顔をしないで…… 笑ってよ……」
そう私に告げる彼女。
でも、私はもう知ってしまった。
「私はもう笑えない……」
現実をそして自分を知りすぎてしまったから。
「それでもだよ」
「なんで!!!」
感情が昂って怒鳴ってしまった私。
そんな時に困ったような顔をしてあなたは言ったよね。
「うーん…… そうだ! あなたは笑った方がかわいいよ!」
「……なにそれ」
「やっと笑ったね……!」
その天使のような笑顔は、生涯忘れられないと思う。
そして私は私に誓ったんだ。
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