[恋愛]育む恋。
びっくりしたような顔をしてこちらを見上げるベアトリーチェ。
まるで、こんなふうに反撃されるだなんて思っても見なかった、そんなふうに。
「それにね。フリード様の気持ちとか考えたこと、あるの? フリード様とお父様の仲をかき乱したりして、仲違いをさせたかったの? 違うでしょ? あなたはわたくしを困らせたくってあんな事を言ったのよね!? アルベルト様がわたくしを愛しているだなんて。それを聞いてフリード様がどれだけ苦しんだのだとか、考えたこと、あるのですか!? わたくしが憎いからって、フリード様を苦しめていいはずがないでしょう!」
「フリード様を苦しめ、た……?」
「そうです! フリード様はアルベルト様のこと、本当に尊敬してらして。そんな大好きなお父様のことで心を痛めている姿を見たかったわけじゃないでしょう!!? あなたはわたくしのことが憎かっただけ、わたくしを困らせたかっただけで、フリード様を苦しめようだなんて思っていたはずないですよね? だったら、何故あんなこと言ったんですか!!」
「でも、だって……」
「わたくしも。確かに自分のことで頭がいっぱいで、フリード様をちゃんと見てあげられなかった頃がありました。だけど。愛って、お互いの思いがあって初めて成り立つものですもの。自分だけの都合で相手を苦しめるだなんて、そんなのダメです! 少なくとも、相手を思いやらない恋、なんて、そんなのお互いに不幸になるのが目に見えてるじゃないですか!!」
はぁはぁと、息が切れる。
ううん、今のわたくしは本当の身体じゃないから、これは精神的なものだとわかってる。
だけど。
ここまで一気に叫んで、もう息が切れるほどの気分になって。
「わたくしは……、そんな恋は、嫌です……」
そう、最後を締めた。
「じゃぁ。じゃぁどうすればよかったっていうの。わたくしは、自分の恋をただ諦めて泣き寝入りすればよかったって、そういうの!?」
ベアトリーチェがそう、吐き捨てるように声を出す。
『そうだよ』と、言いそうになって、口をつぐむ。
流石にそれは言えなかった。
恋なんて。
いつもいつも自分の思い通りになるわけがない。
自分だけのものじゃ、ないんだもの。
二人で、育んでいく、そういうものだもの。
うまくいってるような時だって、いつだってお互いに勘違いや行き違いをしてしまい仲違いすることだってあるだろう。
でも。
そんな行き違いを乗り越えて、そこから先、共に歩めるようになるのがやっぱり好き。
そういう恋を、フリード様と二人、育んでいきたい。
そう思っているから。
半分放心状態のようになってしまったベアトリーチェ。
しばらくその姿を見守っていた。
——ベアちゃん。泣かないで。
空の上から、そうシルビアの声が降ってくるまで。




