[怖]落ちていく心。
落ちる。ひたすら落ちていく。怖い、怖い、怖い!!
真っ白な空間、自分の中にいたときは、どんなに潜っても怖いなんて思わなかった。
でも、ここは、怖い。
自分じゃないっていうのがこんなに怖いことだなんて思わなかった。
でも。
フリード様だったら、もしこれがフリード様に触れているのだったら。
きっと、怖くなかったかもしれないな。
そんなことも頭をよぎる。
っていうか、おっこちすぎて、少し余裕出てきた? わたくしったら。
「ごめんね、いきなりこんなんで、エルザ様」
え?
隣を見ると、いつの間にか一緒に落ちている男性の姿、気配。
最初はぼやっとしか認識できなかったそれは、段々と人の形に見えてくる。
って、勇者、様?
勇者パルツィファル、さま?
「うん、そうだよ聖女エルザ様? って、俺のことはパーシでいいよ。パルツィファルって発音しにくいからさ」
「え? パーシ、さま?」
「様もいらないよ。ただのパーシでオッケー」
そういってこちらを気にかけてくださる彼のお顔が、ほんわか温かく見える。
「では、わたくしのことも、エルザと呼び捨ててくださいませ。何だかわたくしだけ様をつけて呼ばれるのも落ち着きません」
「わかった、じゃぁ、エルザ、早速だけどお願いがあるんだ」
そういって、この空間の底を見据える彼。
「そこ、青い丸いのが見える? あれが俺の心。中心。とりあえずあそこが終着。たどり着いたところで、君の力を貸して欲しい」
「わたくしの力を?」
「ああ。ずっと見てきたけど、君ったら潜在能力はとんでもなく高いけど、それを生かしきってないみたいだったから。ちょっとだけ君の力を俺に使わせてよ。力の引き出し方を教えてあげる」
そういってにこりと笑う彼。
今でも、この空間は少し怖い。
きっと自分が自分でなくなってしまうような、自分がとけて消えてしまうような、そんな恐怖があるから? かもしれない、けれど。
でも。
何だか、この勇者様なら信じられる。
そんな気がする。
身をゆだねても、大丈夫? ままよ!
「わたくしでよければ、わたくしの力でよければ。それでこの危機を回避できるのであれば。お任せします」
そう答えて。
「そう言ってくれると思ったよ。エルザ。ありがとう」
終着の青い光。
わたくしの中心は赤かった。
きっと、あの赤は強い負の感情だったんだと思う。
でも。
勇者様のこの青さは、何だかすごく、心が安らぐ気がする。
「マジカルレイヤー!!」
勇者様のそんな叫びが聞こえたところで、わたくしの意識はその青の光の中に、溶けた。




