[馬車]勇者一行。
最初からそのつもりだったのか、それともわたくしが泣いてフリード様と離れたくないとか言ってしまったからかはわからないのだけど、アルベルト様は騎士団から選抜隊を募って勇者パーティーに随行させてくれるよう国王陛下にねじ込んでくれたらしい。
洞窟が大人数で入るのに向いていないこともあって、勇者様は少数精鋭のパーティーを組んでいらしてた。そこに騎士団からも少数精鋭で数人選んでくれたのだ。
当然、フリード様は絶対に自分も行くとアルベルト様に食ってかかってた。
と、いうか。
フリード様ったら、なんだかアルベルト様に対して当たりがきつい?
この間まで、お父様にあんな言葉遣いしているところ見たことがなかった。
それが少し不思議で。
どちらにしてもフリード様が少し変なのは一緒。
どうしてしまったんだろう。
黙り込んでいるよりは、こうして感情を表に出してくれる方がいいかもしれないんだけれど。
黙って、何も言ってくれない方が辛い。
悲しいよ。
馬車はこのわたくしたちが乗っているものと、あと荷物を載せた荷馬車の2台。
他のメンバーは騎乗で周囲を囲んでいる。
先頭をゆくのはマイク・バッケンバウアー様。
貴族院の同級生で、いつもフリード様と剣技の実力を競い合っていた。
騎士団の中でもフリード様といいライバル関係だよと教えてくれたのはアルベルト様だったか。
今回もどちらが騎士団メンバーのリーダーになるか揉め、くじ引きでかろうじてフリード様がリーダーと決まったのだとか。
そうでなかったらあの騎馬で先頭をゆくのはフリード様の役目になっていたかもしれない。
騎士団からは残り二人。
いずれも屈強な先輩騎士二人が左右を守って。
勇者様のパーティーは、まずしんがりを務める剣聖、ガンデット・ソユーズ様。身長よりも長い大きな剣を背中に背負って、そしてこれまた大きな赤茶けた馬にまたがって最後尾を警戒しながら護ってくれている。
右斜め後ろには白馬に乗った白い魔道士シルバー・サイレン様。真っ白な魔道服に身を包んだ彼は、あまり口を開く事なく静かに周囲に溶け込んでいる。
そして。
漆黒の、スマートな馬に乗るのは魔女、黒の魔女ラプラス様。
妖艶な雰囲気の彼女。だけれどその魔力は計り知れなくて。
その三人が三人とも、かなりのマナを持っているのがわかる。
勇者様もお強いのだろうけど、きっとこの三人もかなりの強さを誇るのだろう。
フリード様も強いと思うけれど、それでもきっと、この人たちには経験の差で負ける。
そんな事を言うときっとフリード様は怒るだろうけど、でも、たぶん、これは間違いがないと思う。
それくらい、彼らの強さは際立って見えた。
ううん、彼らのその魔力の濃さが際立って見えていた。
馬車は通常よりもかなりスピードを早め進んだせいか、通常であればロムルスまで四日はかかる道のりを、ほぼ二日で踏破して。
一晩野宿をしただけで翌日夜にはロムルスの街に到着したのだった。
わたくしたちはそこで一晩宿をとり、そして翌朝ロムルスの洞窟へと向かうこととなった。




