【Side】シルビア。2「お姉さま」
お父様は体調が悪そうだ。
「ねえお父様? 体調が悪いのなら無理して夜会に行かなくてもいいんじゃありません?」
お屋敷の玄関前でそうお話してみた。
けど。
「今日の夜会はエルザの表彰があるらしい。王宮からは必ず出席するようにとのお達しだった」
そう、ぼそっと吐き捨てるように仰るお父様。
ああ、でも、だって。
「表彰くらい、いいじゃない。お父様はそんなふらふらなのにお姉さまの晴れ姿が見たいの!?」
別に、それが悪いと思っているわけじゃない。
ただあたしはお父様の体が心配なだけだ。
「そんなつもりはないっ。王宮からのお達しだから断れないだけだっ」
そう怒るお父様。
最近は本当に怒りっぽい。
前はこんなふうにすぐ怒ったりはしなかったのに。
あたしが悲しくって俯いてしまったのを見て。
「悪い、シルビア。怒鳴るつもりはなかったんだ」
と、あやまってくれた。
お顔には笑顔が戻るわけじゃない。
もうずっと、お顔は怖いまま。
お姉さまのせいだ、というのはわかる。
お姉さまがいなくなってからお父様はおかしくなった。
なのに、どうしてお姉さまは帰ってきてはくださらないんだろう?
ご結婚してしまったらあちらのお家に行ってしまうというのは理解してる。
でも、どうしてそれまでの短い期間でもいい。
いきなり家を出てしまい、帰ってこなくなってしまったんだろう。
お父様はこんなにもお姉さまがいなくって寂しがっていらっしゃるのに。
♢
元々、あたしとお姉さまはあまり仲良くしていた訳ではなかった。
っていうか、庶民丸出しのお母様がお貴族様なお姉さまとお話しするのを避けてたのが原因だったのでは? って今にして考えるとそうだとわかる。
お母様、自分の話し方がお姉さまにうつったら大変だもの。ってあたしにそうぼやいていた。
あたしはいいの?
そう聞いてみたけど、あんたはあたしの子だもの、と。そう仰るだけで。
まあ確かに?
あたしでも気を張っていないとついついお嬢様言葉を忘れることがある。
お姉さまはこのローエングリン伯爵家の後継だし、そうでなくともバルバロス侯爵家に嫁ぐことになったし、で。あたしみたいにこんなはすっぱな言葉遣いを覚えさせちゃったら大変だというお母様の気持ちもわからないわけじゃないんだ。
でも。
そのせいで、あたしはお姉さまのおっしゃってることが半分もわからない。
言葉の意味がわからないっていうわけじゃないよ?
その気持ちがわからないの。
一体どんなお気持ちで、今の言葉を話したか。
それが謎。
もっと本音でぶっちゃけてお話ししたい。
そう思ったことは何度かあった。
でも。
だめ。
あたしはお姉さまに拒否されているもの。
壁が、ある。
そう思ったのはこの間のお茶会の時だけじゃない。
子供の頃からずっと。
そう思って過ごしてきたのだから。




