[地位]並び立つ。
「ローエングリン伯爵家より、エルザ・ローエングリン。陛下の隣に」
グダグダと考えている間にもうフリード様も終わって、最後のわたくしの番になっていた。
フリード様は風神の紋章、アウラの加護だったはず。
ああ、ごめんなさい。陛下がそうおっしゃるところ、ちゃんと聞いてられなかった。
そうそう。
加護というのは本当に色々あって、一人一つというわけでもない。フリード様もアウラの加護の他にもアークの加護もバアルの加護も持ってらっしゃる。その中でも特に強く現れているのがアークの加護だということで。下級貴族になれば弱い加護しか持たないものもいるけれど、流石に上級貴族ともなれば、精霊の名を直接冠した最上級の加護を持っていることが多い。
そんな中、聖女の加護というのは……。
その最上級のさらに上をいく、加護のうちの一つであり。
特にこの聖女の加護は、この世の全ての精霊の権能を引き出すことができた。
要するに、全ての精霊の名を冠した加護を全て保持しているのと同じ、という事で。
うん。
特別視をされるわけ、わかるかも。
「エルザよ、そこではない、そなたは王の隣に並びなさい」
皆と同じように陛下の前に立った時、フランドール宰相様がそそっと近づいてきて小声でそうおっしゃった。
はうう。
事前の説明でもそう伺ってたのに、考え事していたらついつい間違ってしまって。
(心の中では慌てて)あくまで態度はゆったり堂々と、王陛下の隣に並んで立つ。
「皆、よく聞いて欲しい。今回の貴族院卒業者の中でも成績が最優秀であった彼女、エルザ・ローエングリンに現れたのは聖女の紋章であった。先代聖女が身罷られてから百有余年。皆が待ち望んだ聖女がここに現れたのだ。どうか盛大な拍手でもって迎え、歓迎しようではないか!!」
国王陛下のその声に、まるであらかじめ仕込んであったかのように会場中が盛大な拍手に包まれた。
そんな皆の顔が見える位置、国王陛下のお隣に恐縮しつつ立っているわたくし。
何だか本当に場違いだという気分で。
そもそも今までの聖女様は元々王族の血をひく方々だったのだもの。
わたくしみたいな一伯爵令嬢がこんな場所に立つのは本当に烏滸がましくて。
この間宰相様に言われた時には気が付かなかった。
フランドール宰相様が、
「貴女は聖女なのだから、そんなにかしこまらなくても良いですよ」
とおっしゃられた時は。
その時は単にわたくしの緊張をほぐしてくれたのだろう。そんなくらいに考えて。
でも。
知らなかったけれど、聖女というのは王族と並び立つほどの地位をもつもの、らしい。
だからこうして国王陛下の隣に立って、皆に応えるのだと。
そう聞かされた時には気が遠くなりそうだった。
今でも、もう緊張して立っているのが辛いくらい。
緊張で目の前がよく見えなくなっていて、周囲の人のお顔もよく見えなくて。
何度も何度も息を吸って吐いて。
拍手が鳴り止む頃、やっと少しだけ周りを見る余裕が出てきたと思ったのだけれど。
見なきゃ、よかった。
目を見開いて。驚愕のお顔でこちらを見るグラームスお父様と。
先ほどよりも、もっと憎しみの色が強く見えるベアトリーチェ様のお顔が目に入ってしまったから。




