[不安]もう一つの可能性。
「おやすみエルザ」
軽く挨拶のキスをくれて。
お部屋を出て行くフリード様を見送って。
彼を好きで良かった。彼に愛されて良かった。そう思う反面、少しだけ不安を感じていた。
フリード様には、「そんなもの、義理の父親づらという意味なだけだろう?」と言うだけで、あまり気にはして貰えなかったけれど。
どうしてもそれだけではない気がしてならなくて。
もしかして、だけれど。まさかとは思うけれど。でも、そう考えれば一番納得がいく。
あの父は、お母様の不貞を疑っているんじゃないだろうか。
え、でも。
そうしたら。
わたくしの本当のお父様ってアルベルト様だったっていう結論になってしまう。
もし父グラームスがそんなふうに疑念を持ったが故にアルベルト様に対してあんな風な態度を取るのだとしたら?
あの全ての言動が、繋がる気がするのだ。
でもでも。いくらなんでもそれは無い。
だって、そんな事になったらわたくしとフリード様はきょうだいということになってしまうもの。
それも、お誕生日はわたくしの方が少し早かったはず。
いくらなんでも、お母様が違うとはいえフリード様が血のつながった弟になるだなんて、そんなはずはないもの。
他の国の風習とかよく知らないから、もしかしたら腹違いであればきょうだいで結婚できる国がある可能性だって無いとは言えないけれど、それでも少なくともこの国ではきょうだいでの結婚は禁忌だ。
わたくしが彼の娘かどうかなんてことはきっとアルベルト様が一番ご存じのはず。
心当たりがあるのかどうか。
本当に不貞を働いたのか。
その事実があるのかどうかの話だけだもの。
もし本当にそんな事実があるのなら、少しでもそんな可能性があるのなら、アルベルト様がこの結婚を許すはずがない。
いくらなんでもそんな、人としての禁忌をおかすような真似はしないと信じたい。
でも。
だったらなぜ父はそんな簡単な事も理解できなかったんだろう?
何故、この婚姻の申し出を受けたのだろう。
それが疑問で。
ふっと、もう一つの可能性が頭をよぎった。
ああ、確かあれは、あそこに。
わたくしはベッドの脇のチェストの、鍵のかかる引き出しを開けた時の事を思い出した。
最初、そこには鍵がかかったままだった。貴重品入れなのだろうと思いほかの引き出しを開けてみると、そこには一つの鍵がおいてあり。
当然そこに何かが入っているなどと考えもせずに開けてみたのだった。
そこにあったのは、小さな額縁に飾られた本当に小さな絵であったけれど。
二人の男女が仲良さげに佇んでいるそんな絵で。
その時はああこれは元のこのお部屋の持ち主の大事なものだろうから、と。
なぜか見ちゃいけないような気がして慌ててしまいもう一度鍵を閉めたのだった。
ガサゴソとその鍵をしまった引き出しをあけ、そうしてふるふると震える手でその絵がしまってあった引き出しの鍵を開ける。
そして。その奥にあった額縁を取り出し、今度はしっかりと眺めてみた。
まるで本物の人のように写実的に描かれたその絵には、儚げで美しい、どことなくフリード様に似た女性と。
そして、アルベルト様にも似ているけれど、もっと男性的で無骨な雰囲気の男性が寄り添って笑みを浮かべていた。




