[続]フリード。
時間軸、最初のエピソードのすぐあとに戻ります。(心溶かして。の後デス
ここまでの道のり、ほぼ眠っていられなかったせいか、全身にかなりの疲労が溜まっていて。
フリード様のお顔を見てもそれはたぶん、一緒だった。
目も腫れて、クマができている。
ああ、もしかしたらわたくしの顔も酷いありさまなのだろうか。
そう思うと恥ずかしくてまともに彼の顔を見ていられない。
そんなふうに顔をそむけると、逆にじっと覗き込んで目を合わそうとしてくるフリード様。
「あまり顔を見ないでくださいませ。みっともなくて恥ずかしいから」
そう小さな声でなんとかお願いするけれど。
「綺麗だよ、エルザ。君は世界で一番美しい」
そんなセリフをわたくしの耳元で恥ずかしげもなく囁く彼。
抱き上げられたままの姿勢で、お顔が近すぎて。
ああ、彼はこんな話し方だっただろうか?
もっと無骨で無口で、いつもわたくしの前では何もお話しにならなくて。
好かれてはいないのだとずっとそう思っていたのに。
こうしてわたくしの事を好きだと言ってくれて。
そうしてプロポーズまでしてくださった今でも、全てが夢ではないのかと、本当はわたくしはもうすでに死んでしまったんじゃないかとか、そんな考えが頭をよぎる。
まだ現実味がなくて、頭の中がふわふわとしてしまっている状態で。
「疲れた? 少し休む?」
そう優しく囁くフリード様に。
「貴方こそ、お疲れではありませんか?」
と、そのお顔を両手で触って。
「キュア」
と、小さく囁いた。
昨日の卒業式で頂いたわたくしの貴族章に刻まれた紋章は聖女の紋。
国王陛下は仰った。君のご先祖にはきっと聖女様がいらっしゃったのだろう、と。
もうここ百年以上この世界に現れていないと言われる聖女様。
ただの聖職者、ではない。
神の使い、救世主となりうる女性。
それが聖女と呼ばれる方だ。
まさかわたくしの貴族章にそんな聖女の紋が刻まれるなんて。
わたくしに、聖女の加護があるだなんて。
驚いたけれど、正直信じられなかった。
自分の魔力特性値がかなり高いということはわかっていた。
貴族院でいつも首席でいられるくらいには。
もちろん才能だけに甘えていたつもりはないし、実技だけでなく学科の勉強も頑張った。そういう努力で首席の座を勝ち取ったのだという自負もある。
それでも、聖女はできすぎだと。
そんなふうに感じて。
わたくしの両手の手のひらから金色の粒子が巻き上がる。
神の子キュアは、そんな粒子の状態で普段は大気に溶けるようにこの世界に満ちている。
わたくしは、そんなキュアを呼び出して少しだけ自分のマナを分けてあげるだけ。
マギアを行使するっていうのはそういうものだと、感覚的にはよくわかっていた。
今まで授業の実技で練習しただけで実際にこうして人に使うのは初めてだけど。
それでもきっとうまくいく。
そんな確信はあった。
ふんわりと巻きあがった金のキュアは、彼、フリード様のお顔に吸い込まれていった。
彼のお顔の目の腫れとクマを癒してあげたかった。
ただそれだけの気持ちで。
「ありがとうエルザ。俺の聖女。君の清廉な輝きに俺はずっと恋をしていた」
すっかりと綺麗になったお顔に笑みを浮かべ、そう熱っぽくこちらをみつめるフリード様に。
わたくしも、頬が熱くなって。
そのまま彼の胸に顔を埋めて囁いた。
「フリード様、大好きです」と。




