第6話
それから二日後。
やはり私の方が先であり、『赤い金魚の女性』の姿はなかった。少し寂しいと同時に、「しめしめ」という気持ちも持ちながら、一人で金魚のスポットに入っていく。
今度は私も、金魚の餌を持参してきていた。わざわざ昨日、ペットショップへ行って買ってきたのだ。
前回の彼女の姿を思い出しながら、池に餌を投げ入れたのだが……。
金魚ではなく、鯉たちが寄ってきてしまった!
「おい、お前じゃないぞ! お前たちはお呼びじゃない!」
私のツッコミを理解するはずもなく、数匹の鯉が餌に群がり、バシャバシャと水音を立てる。
ひとしきり暴れた後、私が投げた餌を食べ尽くしたらしく、鯉たちは去っていった。
そして入れ違いのタイミングで、また『赤い金魚の女性』が現れる。
「水音が聞こえましたけど……。今日は随分と賑やかですのね」
「いやあ、面目ない。私も餌付けを試みたのですが、来たのは金魚ではなく鯉だけでして……」
「あら、面白い。人違いならぬ魚違いかしら」
彼女は私の話に笑いながら、隣で餌を撒き始めた。
鯉のような大型の魚が複数、場所を荒らした直後なので、小さな金魚なんて来るはずもない。私にはそう思えたけれど、予想に反して、赤い金魚は近寄ってきた。
「不思議なものです。あなたには懐いているのですね、この金魚は」
「こんな格好をしているから、私、仲間だと思われているのかも」
どうやら彼女自身、金魚を彷彿とさせる服装だという自覚があるようだ。
「まあ、それは冗談として……。理由はわかりませんが、あなたには懐くことなくツンツンした態度を見せて、私にはデレデレと甘えてくれる。これって、いわばツンデレでしょうか。ツンデレ金魚なんて、なんだか個性的で可愛いと思いません?」
ツンデレというのは、同じ相手に対してツンとデレの両方を示す場合だろう。しかしこの金魚の場合は、私と彼女、それぞれに違う態度をとっている。
こういう場合は、むしろ人見知りと呼ぶのではないだろうか
頭の中ではそう考えてしまうけれど、わざわざ訂正するのも大人気ない。今のこの時間を心地よく感じて、私も微笑むのだった。
「そうですね、ツンデレ金魚だ。いやはや、本当に可愛らしい」
(「ツンデレ金魚」完)