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第3話

   

 彼女が目に()まったのは、三度目の散歩の時だった。

 上側の池を取り巻く、低木の茂みの中。かつての子供たちの釣りスポットの一つ、池の(きわ)まで降りられるところで、一人の女性がしゃがみ込んでいた。

 後ろ姿だけ見ても、背格好から考えて、子供でないのは明らかだった。ならば、水面に手が届く距離まで近づいているけれど、水遊びではないのだろう。

 一番の特徴は黒いロングヘアーで、服装としては赤いブラウスと薄桃色のスカート。どちらもフリルのついた、少しヒラヒラした形状だ。ちょうど池を泳ぐ鯉も一緒に視界に入ってきたせいか、魚の背ビレや尾ビレを連想してしまう。


 第一印象はそれだけであり、その時は私も、特に立ち止まることなく通り過ぎていた。

 しかし、彼女も私のように、この『池の公園』の常連だったらしい。その後も何度か、私は同じ女性を目撃する。いや意識してみれば「その後も何度か」どころか、かなり頻繁だった。

 あれが彼女のお気に入りなのか、あるいは、散歩に適した格好なのか。最初の時と同じように、ヒラヒラした服を着ている場合が多く、別の服装だとしても赤系統ばかり。

 第一印象の影響もあり、いつしか私は、心の中で彼女を『緋鯉の女性(ひと)』と呼ぶようになっていた。


 その『緋鯉の女性(ひと)』は、いつも決まって同じ場所にしゃがみ込んでいた。水面に手を伸ばしているようだが、釣りをしているわけではない。小さな袋を手にしているけれど、それで魚をすくっているわけでもなかった。

 木々の茂みの隙間から様子を窺ってみたが、彼女が何をしているのかは不明のまま。池の中央で鯉たちが泳ぐ(さま)を見守っているのでもなく、彼女の視線はもっと足元に近い辺り、つまり水際ギリギリに向けられている。

 年齢は二十代半ばのようだ。斜め後ろから垣間見えた表情には、しっとりとした笑みが浮かんでいた。

 結局、ミステリアスな雰囲気が深まるだけで……。

   

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