女エルフの狩人
悪魔が洞窟の天井から沁み出す水滴を溜めて、こちらの山から向こうの山までせき止めて作ったお風呂の準備をしているのにかかる時間ほど昔の事です。世界には沢山エルフがいました。
沢山のエルフがいたので、色んな性格のエルフがいましたが、中でもエルフのスーリーは、とても変わったエルフでした。
スーリーは、とても美しい女性でしたが、乙女しか愛さなかったのです。スーリーは、狩人でしたが、男と乙女が一緒に狩りに出かけると、悪い祟りが起きるという言い伝えを知っていたので、スーリーの狩りの仲間は、全員、乙女でした。スーリーは、美しいだけでなく、とても狩りが上手だったので多くのエルフの乙女は、スーリーを慕い、スーリーと共にいました。スーリーも幼い頃から乙女とずっと一緒にいたので、乙女以外は、愛さず、男を近づけませんでした。
そんなスーリーを見て両親は、早く男と結婚して子供を作るように急かしましたが、スーリーは、男には、興味がないと気にも止めませんでした。
そんな美しい狩人のスーリーの噂を聞いた男のエルフ達が、スーリーに妻問いに近づいて来ましたが、スーリーは、矢をつがえて怒るので、男たちは、諦めることしか出来ませんでした。
ある時、偶然、スーリーが狩りをしている姿を見かけた一人の男のエルフが、スーリーに一目惚れしてしまいました。
スーリーの長い髪は、小麦畑のように金色に輝き、細く白い首は、小鹿のようにたおやかで、薄い胸は、まさに乙女の象徴でした。その純白のシーツのように清らかな姿は、男であるならば、誰もが恋焦がれることでしょう。
男のエルフは、ランスと言う名前でした。ランスは、始め、スーリーに正面から近づき、声をかけましたが、スーリーは、やはり矢をつがえて怒るので、ランスは、スーリーに近づくこともままなりません。山から降りてきたランスは、仲間に相談しましたが、誰もが笑ってこう言いました。
「スーリーは、女しか愛さない。諦めて他の女を探すんだな!」と。
ランスも頭では、わかっていましたが、どうしてもスーリーを諦めきれず、毎日毎日、どうすればスーリーと恋人同士になれるのかと、頭を悩ませていました。
そんなある日、ランスの夢枕に山の神様が立ち、「スーリーに近づきたいなら、女の姿で逢魔時に山で待つと良い」と、お告げをしました。ランスは、それを聞くと、山の神様に魚をお供えして感謝すると、朝一番に服屋に出掛け、白いドレスを買いました。ランスは、それを着て山に入るとスーリーが来るのを待ちました。
やがて日がくれ始める逢魔時に、ランスは山から降りてきたスーリーと出会いました。
ランスを見つけたスーリーは、警戒もせずに声をかけてきました。
「あら、可愛いアナタ。見かけないわね。どこの娘かしら?」
元々、線の細かったランスは、夕暮れの中では、女の子にしか見えませんでした。
ランスは、自分に近づいてきたスーリーの美しさに正気を失い、思わずスーリーに抱きついてしまいました。
スーリーは、ランスの力強さから、すぐにランスが女ではないことを知りました。スーリーは、狩りの名手でしたが、男に組み付かれたら、どうしようもありません。あっという間に地面に押し倒されてしまいました。
スーリーは、怖くなって、いやんやめてと、声を上げて許しを乞いましたが、ランスは無理やりスーリーにキスをしようとしてきました。
ランスの唇がスーリーの唇に触れそうになったそのとき、スーリーの涙に濡れた瞳に夜空に輝く三日月が映りました。スーリーは、思わず声を上げて三日月に助けを求めました。
「ああっ!狩人の守り神であられる三日月様!!どうか、私を不埒な男からお救いください。」
三日月の形が弓を引いた形に似ていることから、三日月は、狩人の守り神と言われていました。スーリーは、藁にもすがる思いで、三日月に助けを求めたのです。
すると、不思議な事に三日月が大きく弧を描いたかと思うと、三日月から矢が放たれたのです。
矢は、ランスの急所を正確に撃ち抜きました。すると、どうでしょう。不思議な事にランスは美しい乙女に変わってしまいました。
もう、男ではなくなったランスを見て今度はスーリーが、ランスに迫りました。
「あら、可愛い子。あなた、私のものになりなさい。」
ランスは、いやんやめてと、泣いて許しを乞いましたが、スーリーは許さず、ランスを抱えると、山の奥深くに連れ去ってしまいました。それっきり、スーリーとランスを見たものはいないと言うことです。
この話を聞いた男エルフの狩人達は、「言い伝えは、本当だったんだ。山に乙女を連れて狩りに行くと恐ろしい祟りがあるんだけど。」と、股間を押さえて恐れました。
それからはエルフの男は、絶対に狩りの時に乙女を山につれていかなくなったと言うことです。




