湖の女王
これはまだ、砂糖で出来た太陽が邪神の頭の上で目玉焼きを焼いていたころのお話です。
湖の女王は、それはそれは美しい女性でした。
どんな高潔な騎士も彼女を見ると骨抜きにされてしまうし、どんな頑固な職人も彼女を見ると骨抜きにされてしまうし、どんな偏屈な魔術師も彼女を見ると骨抜きにされてしまいました。
それは、湖は側に咲くプレイシアの花の精とて同じことでした。
プレイシアの精も湖の女王を見るまでは、自分がこの世で最も美しいと信じていました。毎日毎日、水辺に映る自分の姿を見つめては、「ああ、どうして僕はこんなに美しいのでしょうか?」と、ため息をついて過ごしました。
ところがある日、水の中の王国を歩く湖の女王を見ました。白雪のように白い肌にお月さまのように切なく輝く銀色の髪。アクアマリンのように蒼く澄んだ瞳、可愛らしい口元は紫陽花のような桃色でした。たおやかな手足は、スラリと伸び、水色のドレスがよくお似合いでした。
彼女を見た瞬間にプレイシアの花の精は、恋に落ちました。
それからというもの、プレイシアの花の精は、湖を覗きこんでは、水に映る自分の姿ではなく、湖の女王の姿を見つめては、
「ああ、この世で唯一、僕よりも美しい人。とても愛しいあの人に、この気持ちを伝えたいけど、プレイシアの花でしかない僕は、水の中の王国に行くことは、出来ない。」と、ため息をついて過ごすようになりました。
そんなある日です。異国の神様が湖の近くにやって来ました。異国の神様は、湖の女王を見るなり恋に落ち、水の中の王国の番人達をやっつけて彼女を捕まえてしまいました。異国の神様が、湖の女王が逃げられないように魔法の紐でそのか細い体を縛り付けると不思議なことに湖の女王は、指先一つ動かせなくなりました。そして、異国の神様は、悲鳴を上げて嫌がる湖の女王を雲で出来た馬に乗せると、嵐を呼びよせ、その風の道を辿って湖の女王を自分の国に連れ去ってしまいました。
湖の女王の悲鳴を聞いたプレイシアの花は、異国の神様に向かって
「彼女を離せ!乱暴者め!」と、罵りましたが、異国の神様は、「花の精に何ができる?」と、せせら笑って相手にもしませんでした。
プレイシアの花の精は、湖の女王を目の前で連れ去られたのに何もできなかったのが、悔しくて、そして、湖の女王が心配で涙を溢しました。
「ああ、僕がプレイシアの花ではなく、せめて人の姿をしていれば、異国の神様と戦うことが出来たのに!」
プレイシアの花の精がそういって悔しがるのを聞いた山の神様がプレイシアに尋ねました。
「プレイシアの花の精よ。お前は、本当に人の姿をしていれば、この土地の誰もが恐れるあの異国の神と戦う勇気があるのかね?」
プレイシアの花の精は、答えました。
「もちろんです。山の神様。僕は、湖の女王のためならば、異国の神様とも戦うことが出来ます。」
山の神様は、再び尋ねました。
「プレイシアの花の精よ。お前は、異国の神様とどうやって戦うつもりかね?」
プレイシアの花の精は、勇ましく答えました。
「真の愛の力で戦います。」
それを聞いた山の神様は、満足そうに頷いてから、隣の山にすむドラゴンと地中の魔神様に相談しました。
「私は、湖の女王を救うために、この若者に力を与えたいと思う」
それを聞いた隣の山にすむドラゴンと地中の魔神様は、力を貸すことに同意しました。
山の神様は、プレイシアの花の精に人の姿を与え、地中の魔神は、どんな魔法も吹き飛ばすラッパを与え、隣の山にすむドラゴンは、プレイシアの花の精を背中に乗せて異国の神様がすむ宮殿まで運んでくれる事になりました。
隣の山にすむドラゴンは、どんな風よりも早く空を飛ぶことが出来たので、異国の神様がすむ宮殿までアッというまにたどり着きました。
宮殿に入ると、異国の神様は、怯える湖の女王を魔法の紐で壁に縛り付けて、棒でつついて泣かせていました。
それを見たプレイシアの花の精は、怒って異国の神様を口汚く罵りました。
「女の扱いも知らない愚か者め!頭の悪いお前は、タヌキの糞でも嫁にすればいい!」
罵られた異国の神様は、怒り狂って魔法の槍でプレイシアの花の精を刺し殺そうとしました。
しかしプレイシアの花の精は、魔神様から授かったラッパを吹くと異国の神様の魔法は全て解けてしまいました。
異国の神様は、地団駄踏んで悔しがり、今度は剣を持って襲いかかって来ました。
プレイシアの花の精は、剣を持った異国の神様と勇敢に戦いました。異国の神様は、おそろしかっかけれども、それ以上に湖の女王への愛が勝ったのです。
プレイシアの花の精は、異国の神様と3年の春を戦い、3年の夏を戦い、3年の秋を戦い、3年の冬を戦いました。
壮絶な死闘の末、プレイシアの花の精は、異国の神様の剣を奪い取り、首を跳ねて倒すことが出来ました。
愛の力を勇気に変えて、ついに異国の神様を倒した勇敢なプレイシアの花の精に救われた湖の女王は、プレイシアの花の精に抱きつき、熱いキスを何度もすると
「ああ、勇敢でとても美しい人。よくぞ私をあの乱暴者から救ってくれました。お礼に私の身も心は、全てあなたに捧げましょう。どうぞ、私の旦那様となって水の中の王国の主となってくださいませ!」と、言いました。
それからというものプレイシアの花は湖の中に咲くようになりました。この湖の真ん中に生える水草をプレイシアと言うのですよ。
本当に愛しい女性を手にしたいならば、命を捨てて愛さなければ、いけないと言うお話です。




