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黒エルフの赤い瞳

トールドールの森を通るときは気をつけな。

あそこには小さな小さな黒エルフの子供がいて、旅人に悪さをするでな。

赤い瞳に気をつけな。


トールドールの森の近くに住む人たちは、みんな旅人にそう言って忠告するのでした。

この森には、赤い瞳の黒エルフの子供が住んでいて、よくイタズラをしたのでした。

木こりが斧を失くされたり、お弁当を食べられたり、本当に困った黒エルフの子供でした。

だから皆、森に入るときは、どこからこっそりと赤い瞳が自分を見ていないか注意深く調べてから、森に入ったそうです。


そんなイタズラ好きの黒エルフの子供にも心を許す相手がいました。

それはこの森で一番長生きしているモールモールの大木でした。黒エルフの子供はモールモールの大木を「ジッチャ」と呼んでしたいました。


「ジッチャ、ジッチャ。抱っこしていいか?」

黒エルフの子供はモールモールの大木にそう言っては抱きつきました。モールモールの大木は、その木の枝で優しく黒エルフの子供を抱きしめてやるのでした。

黒エルフの子供が耳を大木に付けると水を吸い上げる音が聞こえました。

「ああ。ジッチャ。

 今日は元気一杯に水を飲むな。お腹がすいてるだか?」

黒エルフの子供はモールモールの大木に話かけました。

モールモールの大木は、そんな黒エルフの子供に

「これこれ。坊や。イタズラは止めなさい。

 皆と仲良くしないと一緒に生きていけないよ?」

いつもそう言って黒エルフの子供に諭すのですが、黒エルフの子供は

「おら、アイツラ嫌いだ。

 ジッチャがええ! ジッチャの側にずっといる!」

と言って聞きません。

しかし、モールモールの大木は心配でした。何故なら、もうすぐこの古木は枯れてしまうからでした。

モールモールの大木はもう千年は生きていましたから、死ぬことは怖くありません。ただ自分が死んだあと、自分にだけ心を許す黒エルフの子供の行末が心配でした。

「イタズラはいかんよ。

 皆と仲良くしないと一人ぼっちで死んじまうよ。」

そう言って何度も何度も諭すのでした。


そうやって過ごしていくうちに、ある日、黒エルフの子供はモールモールの大木があまり水を吸わなくなってきていることに気が付きました。

「ジッチャ、ジッチャ。

 ご飯食べないと元気でないぞ? もっとたくさん水を飲まねぇとだめだよ。」

そういって心配してくれる黒エルフの子供の優しさにモールモールの大木は心の中で涙するのでした。

「これこれ、坊や。

 よくお聞き。わしはもうすぐ死ぬ。

 そうなる前に皆と仲良くするんだよ? 一人ではだれも生きてはいけないんだから。」

モールモールの大木がそう言って語り諭すのですが、黒エルフの子供は、

「いやだっ!! いやだっ!!

 おら、ジッチャがええっ!! おねげぇだっ!! おらを一人にしねぇでけれ

っ!!」

そう言っていつまでも泣きすがる黒エルフの子供にモールモールの大木は心を痛めたのでした。


そして、その年のある寒い寒い冬の夜のことでした。

とうとう古木は死んでしまいました。

黒エルフの子供は、真っ赤な瞳を腫らして、わんわん泣きました。

毎日毎日、声が枯れようとも泣き続けました。

その泣き声が森の外まで聞こえてきたので、近くに住む村人たちは気の毒になり、様子を見に行きました。

森に入った村人たちは、モールモールの大木にすがり付いて泣きじゃくる黒エルフの子供が可哀想で可哀想で、「うちに来なさい。一緒に住もう」と声をかけるのですが、黒エルフの子供は「嫌だ。ジッチャの側がええ。ジッチャの側がええ!」と言って聞きませんでした。


そうして何日かのちの、寒い雪の夜のこと。とうとう森から黒エルフの子供の泣き声が聞こえなくなりました。

翌朝、心配した村人が駆けつけると、そこには、雪にうずもれて冷たく変わり果てた黒エルフの子供の姿がありました。赤い瞳をさらに真っ赤に腫らした哀れな姿でした。

村人達は黒エルフの子供があまりに哀れだと、その遺体をモールモールの大木の側にねんごろに弔ってやりました。


それからというもの、不思議な事にトールドールの森のモールモールの木の側には必ず、あの黒エルフの子供の瞳のような赤い実がつく小さな木が生えるようになったそうです。村人たちは、それが黒エルフの子供の魂だと噂し合いました。

それからというもの、トールドールの森の近くでは

「イタズラばっかりしていると、赤い瞳の黒エルフみたいになっちまうよ!」と子どもたちに言って聞かせるようになったそうです。

このお話は、私が2年ほど前にpixivに投稿した物です。ただ、データを消失してしまったので、新たに記憶を頼りに書き直したものです。

若干の違いはありますが、おおむね元通りと思います。

個人的にはこの童話がこのシリーズの中で一番の出来だと思っています。

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