魔法使いのお姫様
まだ夜露がエメラルドを溶かした滴だった頃の話です。
ある湖の真ん中に建てられたお城に魔法使いが住んでいました。魔法使いは、その城のお姫様でした。
お姫様が生まれる前は、普通の国でした。王子がドラゴンと子供を作り、お姫様が生まれたのですが、国王がそれが我慢ならず、とうとうお姫様が14才の時にドラゴンとお姫様を殺そうと刺客を差し向けました。ドラゴンは刺客からお姫様を守る中、刺客に刺されて死んでしまいました。
ところが、刺客の剣がついにお姫様にも向けられた瞬間、ドラゴンの体から呪いが溢れでて、お姫様以外のお城に住む人全てが消えてしまい、お姫様も魔法使いになってしまったのです。お姫様は、恐ろしい魔力を持っていたので、お城には、恐ろしくて誰も近づけませんでした。のちの人は、「きっと母親のドラゴンが娘を守るために魔法の力を与えたのだろう」と、噂しました。
それから数百年後、かつて王国のあった土地に一人の黒エルフが訪ねて来ました。黒エルフは元は傭兵でしたが戦争が終わり、やることがなくなり旅に出たのですが、旅の道すがら聞いた魔法使いのお姫様の伝説に興味を持っていたので、湖に建つお城を訪ねたのでした。
黒エルフは、城門を通ってお城に入ると
「お姫様。お姫様。私は旅の黒エルフです。どうかお目通りさせていただけますか?」と、声を上げました。
すると、サーッと風が吹いたかと思うと黒エルフの目の前に一人の女が現れました。トカゲのような皮膚に長い髪の毛の間から覗く炎のように赤い瞳。黒エルフは一目見て、「これが伝説の魔法使いになったお姫様か」と、気づきました。
黒エルフがボーッと魔法使いを見ていると、魔法使いは、長い爪の人差し指で黒エルフを指差すと「旅の方、何のご用かしら?」と、尋ねました。
「私は、旅の道すがら聞いた伝説の魔法使いにお会いしたくお城を訪ねました。」
と、黒エルフが跪いて答えると、魔法使いは、怒って魔法で稲妻を出したり、炎を出したりしました。魔法使いは、からかい半分に自分を見に来た黒エルフが怯えて逃げ出すと思っていました。しかし、黒エルフは、「お見事! お見事!」と、魔法を見て楽しそうにはしゃいでいました。その様子を見て魔法使いは、目を真ん丸にして「あなたは私が怖くないのですか?」と、不思議そうに尋ねました。
黒エルフは、「私は、まだ上官から恐れるということを習っていませんので。」と、肩をすくめて笑いました。
それを聞いた魔法使いは、黒エルフに自分にかけられた呪いを解いて欲しいと頼みました。
呪いの解き方は、簡単です。城の中にある神殿で3日泊まるだけ。ただし、その3日間は、神殿を根城にしている悪魔たちに襲われて酷い目に合わされてしまうと言うのでした。
黒エルフは、それを聞き終えると「要するに3日我慢すりゃいいんですね。お安いご用で。」と、笑顔で答えました。魔法使いは、黒エルフに感謝のキスをすると、黒エルフを神殿に案内しました。黒エルフは、しばらく物珍しそうに神殿の中を眺めていましたが、すぐに飽きたのか「では、夜まで休ませていただきます。」と言うと、案内された神殿の真ん中に大の字になるとそのまま、グーグーとイビキをかいて寝てしまいました。さすがの魔法使いも呆れてその様子を見ていましたが、夜が来る前に神殿から立ち去りました。
さて、魔法使いが神殿から立ち去ってからどれくらい時が経ったでしょうか?急にドタドタと足音が聞こえてきて、三人の悪魔たちが神殿にやって来ました。
「ややっ。御同輩。今夜は何故か神殿に黒エルフの臭いがしますぞ!」
一人の悪魔がそう言うと、他の二人も鼻をヒクヒクさせました。その様子がおかしくて黒エルフは、笑って声をかけました。
「やぁ、旦那方、こんな夜更けに何のご用で?」
それを聞いた悪魔たちは、ビックリして、黒エルフの所に駆け寄って来ました。
「ここは、私達の縄張りだ。黒エルフは、直ぐに出て行け!」
「出て行かねば、酷い目に合わすぞ!」
と、脅しにかかりました。しかし、黒エルフは、物怖じもせず「申し訳ないが、旦那方、私は、お姫様にかけられた呪いを解くために3日ここに泊まらねばならん。」と、答えました。
悪魔たちは、黒エルフがあんまり堂々としているので、首を傾げて尋ねました。
「お前さんは、私達が恐ろしくはないのかい?」
「悪魔の旦那方。あいにく私は、まだ上官から恐れると言うことを習っていませんので。」
黒エルフが肩をすくめて笑って答えるので、悪魔たちは、腹を立てて襲って来ました。
黒エルフを怪力に任せて殴ったり、蹴飛ばしたり、放り投げたり、捻ったりするので、さすがの黒エルフも意識を失ってしまいましたが、悪魔たちは、朝日と共に神殿から消えてしまいました。
悪魔たちが去ったあと、魔法使いが神殿にやって来ました。そして、黒エルフにキスをすると、不思議な事に昨夜、さんざん悪魔たちに痛め付けられた傷は、すっかり直ってしまいました。
魔法使いは、「大変ですが、あと2日お願いしますね。」と言うと、魔法で物凄いご馳走を出してくれました。黒エルフは、ご馳走を頬張りながら、魔法使いの手に生えた長い爪が失われていることに気がつき、少しだけ嬉しくなりました。
さて、2日目の夜も悪魔たちが神殿にやって来ました。
「お前は、まだいたのか? 昨日、あんな目にあったのに私達が恐ろしくはないのか?」
悪魔たちは、黒エルフが今夜も神殿にいるので、信じられないものを見たかのように目をパチパチしながら、尋ねました。
黒エルフは、昨日と同じように肩をすくめて笑いました。
「悪魔の旦那方。あいにく私は、まだ上官から恐れると言うことを習っていませんので。」
それを聞いた悪魔たちは、昨日よりももっと怒り出しました。
「だったら、私達がお前に恐れると言うことを教育してやる。今日は昨日より酷い目に合わすぞ!」
そう言うと悪魔たちは、口から炎や吹雪を吐きかけて黒エルフを痛め付けました。黒エルフは、全身に火傷をおい、いつの間にか気を失ってしまいましたが、悪魔たちは、またもや朝日と共に神殿から消えてしまいました。
そして、悪魔たちが去ったあと、魔法使いが今日も現れました。そして、魔法使いがまたキスをすると黒エルフの火傷は、すっかり直ってしまいました。
魔法使いは、今日も魔法でご馳走を出してくれました。黒エルフが、ご馳走を頬張りながら魔法使いを見ると、魔法使いの炎のように赤い瞳がサファイアのような美しい緑色になっていたので、とても嬉しくなりました。
2日我慢した黒エルフに魔法使いは、大変感謝して、何度も頭を下げて「あなたはとても我慢強い人。試練は、今夜で最後です。今夜は、今までの何倍も辛い日になるでしょうが、どうかよろしくお願いします。」と、頼みました。
黒エルフは、笑顔で頷きました。
さて、最後の夜。悪魔たちは、昨日よりももっと驚きながら、黒エルフに尋ねました。
「昨日、私達があれほど恐ろしいということを教育してやったのに、お前は、まだここにいるのか?」
黒エルフは、せせら笑って答えました。
「教育? あいにくですが、悪魔の旦那方。あんた方は私の上官じゃない。教育される筋合いは、ないのさ!」
それを聞いた悪魔たちは、我を忘れるほど怒り狂って、黒エルフに襲いかかりました。悪魔たちは、黒エルフを今までの何倍も酷い目に合わせました。炎を吐いたり、殴ったり、捻ったり、吹雪を吐きかけたり、高く持ち上げてから、地面に叩きつけたりと、もう散々な目に合わせました。しかし、黒エルフは悲鳴一つもあげずにじっと我慢して、決して神殿から逃げ出しませんでした。
そして、とうとう3日目の朝日がのぼりました。すると悪魔たちは、「なんたることだ! なんたることだ!」と、悲鳴をあげながら、燃え尽きてしまいました。そして、それと同時にお城の中に暖かい光が射したかと思うと、呪われた城は、かつての姿を取り戻し、消えてしまったお城の人々も姿を見せました。
そして、もちろん、魔法使いになってしまったお姫様ももと通りの美しい少女に戻っていました。黒エルフは、かつて失われたお城の人々から、大変な感謝を受けました。王様は、かつて自分がお姫様を殺そうとしたせいでこのような事になってしまった事を大変悔いました。
「きっとあの母親のドラゴンは、死ぬ間際、娘を守れる強い男が現れるまで解けない呪いをかけたのだろう。私はなんという酷い事をしてしまったのだろう。」
王様は、涙を流しながら、母親のドラゴンの深い愛に反省し、ドラゴンの思いに応えるようにお城を救ってくれた黒エルフにお姫様を嫁にやり、王位も譲ると言ったので、黒エルフは、この国の王様になりました。
それを聞いたお姫様は、黒エルフに抱きつくと、熱いキスをしました。
「あなたは、とても強い男の人。あなたが呪いの試練を乗り越えたから、私達は、救われました。お礼に私の全てをあなたに捧げます。」
こうして勇敢で我慢強い黒エルフは、王国と美しいお姫様を手にいれて、その後も幸せに暮らしたということです。




