14-1 意外なキッカケ
翌朝、いつもどおりにショウが朝食を持ってくるとキラは起きていて、誰が入ってきたのか確認すると視線を戻し、ショウも声を掛けることなく、トレーを持って部屋から出ていく。
結局、この日は一言も言葉を交わすことはなかった。
そして、こんな日が二日続き、三日目のお昼、いつものようにショウがトレーを持って入ってきた。
キラは、飲んでいる薬がようやく効いてきたようで「少し顔色が良くなってきたな」久しぶりにショウが声を掛けてきた。「腕のケガも大分良くなってきたし」
「……」
「ずっと部屋に閉じこもりっきりだから退屈だろう? カーテンも閉めっぱなしだし」
「……仕方ないわ」
少し間があった後「あと、どのくらいで元に戻れそうだ?」
「……わからない」
「そうか」ため息を吐くので「何か、あったの?」
「さっきキャンベラ婦人が来て、お前の様子を聞かれたんだ」
「婦人に話したの?」
「この前、薬局で包帯やガーゼを買ってるところを見られてしまって。
どうしたんだとしつこく聞かれて、仕事中にケガをしたが、大したことはないと答えておいた。
ところが昨日、ずっと姿を見ないと言って、お前の様子を聞きに来たんだ。
少し疲れて横になってるが、気にするほどのものじゃないと答えたんだが、女性は何かと大変だから手伝うと言いだして。
二階へ上がろうとするのを何とか引き止めて、帰ってもらったんだ」
「……そうだったの」
「とにかく、今日一日様子を見るからと断ったんだが、あの様子だと、明日は部屋へ乗り込んで来るだろう」
「……そう。でも、今なら何とか誤魔化せそうだわ」
「誤魔化す? ああ、あの金属片を使うのか」
「ええ」
「姿は元に戻せるからいいとしても、ベッドから出られない状態だと、手伝うと言って居座りそうだぞ」
「そこは、何とか説得するわ」
そして、次の日の午前十時、予想どおりキャンベラ婦人がやってきた。
キラは額に付けた金属片を隠すため、ショウから借りたバンダナを巻き、普段着に着替えてソファに座っていた。
「まあ! キラさん! お加減はいかが?」
大きな花束を持ち、大声を出して歩いてくると隣に座り「ケガをされたとお聞きして心配したんですよ。それに、疲れが出て横になってるとあとから聞いて。まだお顔の色が良くないわ。横にならなくて大丈夫なんですか?」
「ご心配をお掛けしてすみません。大分良くなりましたから」
「わたくしでよければお手伝いしますよ。女性同士のほうが、何かと便利ですからね」
「お心遣いありがとうございます。でも、大分回復してきましたし、一人で何とかできるようになりましたから」
「そうなの。ああ、これ、家の庭で育ててるの。きれいでしょう?」大きな花束を見せ「花瓶に入れてきますね」婦人が部屋から出ていくと、入れ違いにショウがティーセットを持って入ってくる。
「大丈夫か?」
「ええ」
「長居をされると困るから、早々に話を切り上げて帰ってもらえよ」




