46-5 結界からの脱出
「エッ? 壁の記憶?」意味が分からなくて聞き返すと『壁が崩れたときの状況がどうだったのか、壁に残された記憶を見てるんだ。人間界ではサイコメトリーと言うんじゃなかったかな? ものが持つ記憶を見る能力のことだよ』
「ああ、聞いたことがある。触るとそのものが持つ記録を読み取ることができるとかいう、一種の超能力みたいなものだろう?」
『そうだね』
「そんなことができるんだ。やっぱすげえな」背を向けているタンデルチェスト子爵を見ると「どんな風に見えるんだろうな。と言うより、もしかしたら、通路を壊した犯人がわかるとか?」
『そうかもしれないな』
しばらくするとタンデルチェスト子爵が壁から手を離すので『なにかわかりましたか?』ジェシーが聞くと『誰かがここを通ろうとしたとき、崩れるように仕掛けをした者がいるようだね。姿が見えないが、仕掛けた方法はわかったよ』
『誰か特定できそうでしょうか?』ジュリアスが聞くと『さっきも言ったが、姿が見えないんだよ。たぶん我々側の誰かだろう。これだけでは、どんな理由があって仕掛けたのか、わからないな』
『そうですか。では解析をお願いします』
『できるだけやってみるよ』
『これ以上は崩れたりしませんか?』心配なジェシー。
『そうだね。大丈夫だとは思うが、念のため、補強しておこうか。ちょっと離れてくれないか?』
ジェシーたちが後ろに下がると、タンデルチェスト子爵が崩れた壁に右手を当て、左手で右手の甲を数回人差し指で叩くと、パリッと壁全体に光の波のようなものが走り、消えていく。
『これで大丈夫だろう。念の為、ここに誰か来たら記録を残すように壁に細工したから、外のことを片付けて安全が確保できたら、確認と修復しにこよう』
『でも、結界の中に入ってこれる者がいるでしょうか?』ジェシーが聞くと、ジュリアスが『私たちのように、例の通路から入ってくる者がいる可能性はありますよ』と言うので、『それって、僕たちの仲間だろう?』
『そうです。子爵も言われたとおり、自分の姿が記録されないように行動できる者は、私たちの仲間以外いませんから』
そう言われてジェシーは小さく頷くと『そうだね』とだけ言葉を返す。
「なにしょげてんだよ。まだ通路に仕掛けた理由がわかってないんだから、一方的に悪いほうへ考える必要はないんじゃないか?」オルトが暗い表情のジェシーに声を掛ける。「ファルークが閉じ込められてしまったのは偶然だし、もし壁が崩れてなかったら、なにが起きてたかわからないしな」
『オルト……』
「だから、まだまだ油断はできないってことだよ」
『……そうだな』
『では、そろそろ結界から出ようか』タンデルチェスト子爵が声を掛けるので、土の檻から出るとオルトはテーブルの上のランプの灯を消し、土の檻の外で待っていたファルークとエミアと一緒に、タンデルチェスト子爵を先頭にドアから外へ出る。




