5 念願のご対面
次の日は車で出掛けた。
午後四時過ぎに最初のコンサートホールに着き、偏光フィルター付きの眼鏡を掛けて中に入ると、中二階にあるラウンジで、目的の鏡が壁に掛かっているのを見付けた。
普通に見るとアンティーク調の豪華な鏡だが、例の眼鏡を掛けて見ると、細長い光の触手が無数に鏡から出ているのが見える。
「すげえ。あんなの見たことないぞ。気持ち悪い」と言いつつも、感激のご対面。
「ちょっと、なに感動してるのよ」
「なんだよ。やっと見付けた感動がないのか?」
「ないわ」キッパリと言い返し「はい。よろしく」小型の時限爆弾を渡すと「監視カメラが見てるから気を付けてよ」そっと部屋の右上を指さすと、観葉植物の大きな葉の陰からレンズが見える。
「仕方ないな。ここじゃ持って出られないから」ポケットから小さい箱を取り出すので「何それ」
「監視カメラの電源を壊す機器」
「何ですって?」
「手っ取り早く言えば、一時的に映像を止めてしまうものだよ」
「そんな事ができるの?」
「まあな」
鏡の前には、髪の乱れや服装をチェックするために、入れ替わり立ち代り人が立つ。
ショウは頃合を見てその流れに混じると鏡の前に立ち、髪形をチェックして戻ってくる。
「あの触手の中に飛び込むのは、勇気がいるもんだな」監視カメラの死角に入るとホッと息を吐くので「仕掛けてきたの?」
「当たり前だろう」
「本当? 全然そんなふうに見えなかったわ」
「わかるように付けたら何にもならないだろうが」
「それはそうだけど」
「さあ、帰るぞ」
「なんか、今回はくたびれもうけで終わったみたい」ホッとしたような物足りないような、拍子抜けしてしまうと「仕方ないだろう。これも任務だぞ」
「わかってますよ」
「ククッ」
「なによ!」
「まあまあ、そう目くじらを立てない」
「だって、あれだけライブハウスを回ったのに、一回も見れなかったのよ。今回だって、ここまで来たのにコンサート見れないし」
「それは俺だって同じだよ。でも、いつかどこかで見られるよ」
「いつになるかわからないじゃない」
「そう拗ねるなって。美味しいものでも食べれば気分もなおる」
「美味しいもの?」顔付きが変わる。
「街外れの倉庫街近くにいい店があるらしい。この前行ったライブハウスで、前に並んでた奴が話してたんだ。行ってみるか?」
「どんなお店なの?」
「無国籍料理の店らしい。安くてうまいものを出すらしいよ」
「フウン」興味のある顔をするので(これは、機嫌をなおす手の一つとして使えそうだな)
二人は外へ出ると、早速車に乗って倉庫街へ向かった。
「きれいな夕焼けね。これなら明日は晴れそうだわ」
西の空が真っ赤になっている。




