35-1 「森の幻想」と「水の貴族」
張りだした木の根に気を付けながら、白いモヤの中をゆっくり歩いて境界線を越えると「これで急がなくても大丈夫だ」振り返るオルトが声を掛ける。
『今度巨大ナメクジに会ったら、食べられるか踏みつぶされるかのどちらかだと思ったので、ホッとしました』と言うジュリアスが『そういえばエミア様。この前巨大ナメクジに会ったとき、どうやって逃げられたんですか?』
『ああ、途中でナメクジの背中側に回って、私を探すのを諦めるまでくっついてたの』
『巨大ナメクジに追いかけられたのか!』大声を出すファルーク。
『あなたが洞窟内にいるとわかる前のことよ』
『エミア様が引き付けてくださったので、なんとか無事でした』
『飛べるからといって油断したら危ないからな。気を付けろよ』
『わかってるわよ』
「仲が良くて羨ましいよ。さあ、早く小屋まで戻ろう」踵を返して道を進んでいくと『ああ、空気が変わったね。こちら側は人間界かな。でも、空気が重いから結界の中だと思うけど』
『「森の幻想」です』ジュリアスが答える。『濃霧を発生させて迷わせるものなので』
『「森の幻想」だって? ではオルトが森に来たとき、「水の貴族」の誰かもいたのか?』
「なんとかチェスト子爵のことか?」
『違います』即否定するジュリアスを睨むオルトが「じゃあ、なんとか……」
『いい加減、覚えてください。ホッフマイスター侯爵でもありません』
『ホッフマイスター侯爵は「風の貴族」だろう? 忘れたのか?』突っ込むファルーク。
『お二方のほかにもう一名、「水の貴族」の誰かが関わっています。その方は現在、オルトに物資を定期的に運んでいるので、この国に滞在してるはずです』
「ジュリアス、それ本当か!」確認するオルト。
『間違いないです。川の水を調整して物資を運ぶことができるのは「水の貴族」ですから』
『ジュリアス、心当たりはあるか?』聞くファルークに『いえ、ないです』
『エミア。君は思い当たることがあるか?』
『今初めて聞いて、ビックリしてるところよ』
『……そうか……誰だろう?』
「ここから出たらわかると思う。 きっと先の二名から依頼されたんだろうから、親父がどうなったのか、知ってるだろうな」考えるオルトが「なんなら、今度物資が入った箱を返すとき、メモに書いて聞いてみるか?」
『そうですね……その手がありましたね。でも、その前に、本当に川の水が増えて物資が運ばれてくるのか、見てみたいです』
「現場を見れば、「水の貴族」の誰かが物資を届けてくれてるのか、わかるか?」
『たぶん、わかると思います』
「決まりだ。次の物資補給日は……少し先だな」
『いつですか?』
「確か、五日後くらいだったぞ」
『そうですか……まあ、ファルークの体調も確認しないといけないですし、結界の出口の調査もしないといけないので』
『それより、食料が足りるか? 三名も増えたからな』気になるファルークに「ああ、心配ないよ。今、畑の野菜が収穫期だから、ガッツリ食べられるぞ」
『それは良かった』




