11 共同任務 その十一 脱出
そこへ、側近に付き添われて五名が戻ってきた。
「お帰りなさい」キラが声を掛けると「すごい変わりようですね」驚くアルバートに「みんなもこれから変装するのよ」
「その前に少し休んでもいいかしら? 大勢の視線にさらされながらずっと立ちっぱなしだったから、クタクタなの」
「私も。ジロジロ見られて気分が悪くなるのを我慢して笑ってたから、頬が痛いし、座れなかったから、足が痛くて歩くと辛いわ」
女性たちがソファに座り込むので「疲れてるのはわかるけど、休むのはここを出てからだ」ショウが着替えを持ってくると「ほら、早く着替えて」急かすキラが例の金属片を用意する。
パーティが終わり、屋敷の玄関で老師と側近たちが招待客を見送りはじめた。
「やはり老師は素晴らしいお方だ。どうやって彼らをあそこまで手懐けたのか、秘訣を教えていただきたい」変装したショウが近寄って声を掛けると「ハハハハハッ、それは教えられんよ」
「老師のお力には感服致しましたわ」続いてキラが声を掛けると「来週はもっと驚くじゃろう」
「まあ、来週のパーティが楽しみですわ」
「ハハハハハッ!」上機嫌の老師。
屋敷から出て駐車場へ行くと用意しておいた車に乗りこみ、港へ向かう。
目的の港に着くと午後十時発の対岸行き最終便に乗り、デッキに出て島の夜景を眺める。
「あの島に彼らは一人もいなくなるんだろう? そうなると、あそこも砂漠となってしまうのか?」隣にいるキラに聞くと「まだ大丈夫よ」
「どうしてそんな事がわかるんだ?」
「まだ調査してるところがあるからよ」
「まだ、彼らがあの島に残ってるのか?」
「ええ。でもほかのメンバーが動いてるから、心配ないわ」と言って船内に入るので、ショウもあとから中へ入る。
部屋へ戻るとキラが持ってきたお弁当を広げ、甲板に出ていた彼らが戻ってくると「さあ、四十五分で対岸に着くわ。ここで夕飯を済ませておきましょう」
「いつこんなものを用意したんだ?」ショウが豪華に盛り付けられているお弁当を見ると「パーティが始まったとき、近くにいたメイドさんに頼んでおいたのよ」
「見事な手配、拍手ものだな」
「あの、僕たちが抜け出したこと、気付かれてしまわないでしょうか?」心配するアルバートに「大丈夫よ。部屋には鍵を掛けてあるから、朝まで入れないわ」
「あの鏡を壊してないわ。あれがあのままだと、また狩りを始めるわ」メイという二十代の女性が心配そうな顔をするので「ちゃんと手は打ってあるよ。明日の朝には木っ端微塵」
ショウが言い返すと「木っ端微塵て、何か仕掛けたんですか?」アルバートが聞き返してくるので「ああ、時限爆弾をね」
「エエッ!」
「シッ。屋敷ごと吹っ飛ぶようなものじゃない。あの鏡を壊す程度のものだよ」
「そうなんですか。ああ、驚いた」
「あれだけひどい目に遭ったのに、心配するのか?」
「許すことはできませんが、あの屋敷にいる人間全員が悪いわけではありませんから」
「なんだって?」
「僕たちが元気になるように、毎回シェフの人達が腕を振るってくれたんですよね?」
「……ああ」
「お料理、おいしかったわ」
「ジュースもおいしかったよ」トニーが話に入る。
「僕たちが完食してるのを見て、喜んでくれていたことは知ってます」
「……偉いな、アルバート」
「僕は偉くなんかありません。ただ、前のように暮せたらと思うだけです」
「……そうか」
「僕たちは、あなたのように僕たちのために動いてくれる人間がいることを知りませんでした。今回あなたに会って、人間全員が悪いのではないと知りました。だから、人間全員を憎むことは考え直そうと思ってます」
「……アルバート」
「時間が掛かると思いますが……」
「当然だ」
「でも、ショウは好きですよ」
「……ありがとう。俺もアルバートが好きだよ。良い友達になれると思う」
「僕もそう思います」と言い返され、嬉しそうに笑う。
「さあ、あまり時間がないわ。空腹だと寝るのが辛いわよ」キラが声を掛けると、みんなフォークを取る。
午後十時四十五分、対岸の港に着くと予約を入れてあるホテルへ向かい、チェックインを済ませると、割り当てられた部屋へ入る。
『もしもし、私です。今回の任務は無事完了、予定どおり指定のホテルにチェックインしました……ええ、彼のお陰でスムーズに行きました……ええ、じゃあ、あとで次のデータを送ってください』




