11-3 二重 三重の絡繰り
(ラルさんも、隠れているのが「風の貴族」のファルーク様だと思っているのなら、間違いないのかもしれないが……)
腑に落ちないのが、「螺旋の迷路」を掛けているのが、「風の貴族」ではなく、他の貴族だという点である。
その時、注文したコーヒーがオシャレなカップに入って目の前に置かれるので、ミルクを入れて味を楽しみながら、(今の状況からいくと、「森林の迷宮」を掛けた「土の貴族」が、「螺旋の迷路」を掛けた可能性が大。しかし、そうなると、隠れるために最初に張ったと思われる「螺旋の迷路」は別なのか?)そこでハッとする。
(「螺旋の迷路」は、二つ掛けられていると考えられるか)
「風の貴族」が掛けた最初の「螺旋の迷路」と、次の「彷徨う影狼」が掛けられているエリアのさらに外側に、「土の貴族」の誰かが「螺旋の迷路」を掛け、それらを隠すために、「森林の迷宮」を掛けて巨大迷路を作った。
(それにしても、ここまで厳重にする必要がある理由とは、どんなことだ?)
ここまでくると、さすがに現段階では答えを出すことは不可能だと思い、とりあえず、自分の意見と、新たにわかった情報をショウに送るため、メールを作成する。
そして、森の中に入るというジュリアスとエミア様には、十分に注意して進んでほしいことと、隠れているのがファルークだった場合、体調が良くなったら連絡をくれるように伝えてほしい旨を記載して、送信した。
その後、残りのコーヒーを飲みながら、これからの行動について考える。
(まずは、もう少し大柄な調査員から聞き取りを行うか。それと、前にイベントに参加した経験がある者がこの街に住んでるはず。その者を捜して詳細を集めるか)
その頃ショウは、ファルークを受け入れるために自分の部屋を整え、近くのスーパーに買い物に出向いていた。
ファルークに出す食事の献立を考え、ニ・三日分の食料を買うと、ラル用のマンゴープリンを買うため、例のパティシエのお店に立ちよる。
「いらっしゃいませ!」いつものハキハキしゃべる高校生のバイトの子が笑顔で声を掛けてきて「今日はどのようなご用向きですか?」と聞いてくる。
「プリン・ア・ラ・モードのプリンをマンゴープリンにして、一つ作ってくれるかな? それと、いつものチョコレートクッキー一箱」
「もしかして、彼女さんとケンカしたんですか?」鋭く突っ込んでくる。
「えっ、アッ、ちょっとね」ハハハッと苦笑すると「私なら、彼氏の言うことなら、なんでも聞いちゃいますけど」オーダーを後ろの厨房に通す。
「あまり彼氏を甘やかすことは控えたほうがいいよ。一人で我慢しないで、イヤなことは言ったほうがいいからね」
「はい! もう、優しいんですね」
「そうでもないかもしれないよ。こうやって、彼女の好物を買って、機嫌を取ろうとしてるんだからね」
「いいじゃないですか。ちゃんとフォローするところが優しいです」
そこへ、母親のほうのパティシエが店頭に出てきた。
「いらっしゃいませ」
上品な雰囲気のバレリーナのような華奢に見える女性だが、センス抜群のスイーツを作ることで定評がある。
「いつもお買い上げいただき、ありがとうございます」軽く頭を下げて、店内へ歩いていく。




