11-1 二重 三重の絡繰り
そして、組織の調査員たちと行動している「水の貴族」のシルビアは、昼食の時間になると近くのコンビニでお弁当とコーヒーを買い、執務室の隣の応接室で、イベントの中継を見ながら食べはじめた。
例の森の中に入ったエントリー者たちは、途中から舗装されていない四方八方へ伸びる道を、チームで話し合いながらバラバラの方向へ散って、イベントの目的であるピンクのフルーツを探しにいく。
その様子を、エントリー者たちが身に付けているゼッケンに仕込まれた電波を元に、小型カメラを搭載したリモコン機が追いかけて、送られてくる映像に合わせてアナウンサーが解説する。
「もう森の中に入ってるのか。今年は進むのが早いな。でも、ここまではいつも行けるんだよ。問題はこの後。森の奥へ入っていくと、一チーム、二チームと姿を消していくんだよ~」組織員の中でも一番大柄な三十代くらいの男が、オドロオドロしく話しだす。
「そして、一チームもいなくなって、イベントは中止になるってか?」シルビアが冗談交じりで聞くと「そう思うだろう? 違うんだよ。一時、大騒ぎになるんだけど、イベント終了時間近くになると、今度は、一チーム、二チームと、突然、戻ってくるんだ」
「じゃあ、途中、どこに行ってたんだ?」
「あとから聞くと、ずっと森の中を走ってたと言うらしいんだ」
「森の中をね。まあ、かなり広い森だから、堂々巡りしてても気付かないんだろう?」
「そう思うだろう?」
「またかよ」
「途中で行方不明になったチームの中に、イベントに参加した前後で、人が変わったみたいになった奴がいるんだよ。まるで何かに乗り移られたみたいに……」
「なにに乗り移られるって言うんだよ。幽霊か? 悪魔か? 生霊か?」
「それは俺にもわからないけどさ。でも、怪奇現象だってもっぱらの噂だよ」
「怪奇現象ね。でも、一チームに一台、リモコン機が付いてるんだろう? だったら、行方不明になんかならないんじゃないか?」
「そう思うだろう?」
「もういいよ」
「いいから聞けよ。みんなそのことを疑問に思うんだけど、リモコン機だけ残されるんだよ。つまり、ゼッケンから発せられる電波がなくなってしまうんだ」
「……なるほどな。電波も消えてしまう」
シルビアはお弁当を食べ終わると、買ってきたコーヒーを飲みながら、今聞いた話を分析していく。
(途中で消えていくのは、結界に入ったからだろう。「森林の迷宮」がそれほど広範囲に掛けられてるのか?)
「水の貴族」のシークレット事項保持者であるシルビアも、「森林の迷宮」について、ある程度知っているため、違和感があった。
(「森林の迷宮」はモヤを発生させて方向を狂わせるもの。結界に入って姿を消すのは、「風の貴族」の「螺旋の迷路」だ。まさか、「螺旋の迷路」も張ってあるのか?)
シルビアは先ほど詳しく話してくれた調査員の男性に声を掛けると「先ほどの、森の中で姿を消して、戻ってきたエントリー者のコメントの中で、同じ景色を見たと話してる奴はいたか?」
「どうしてそんなこと聞くんだ?」
「……いや、ただ、どうなのかなって思っただけだよ」




