10-3 結界からの脱出
先ほどまで鳥のさえずりが聞こえる長閑な場所だったのに、急に騒々しくなる。
『一体、なにが走ってるんだ?』
ドスドスという音がだんだん近づいてくるので、いやな予感がするジェシーが振り向くと、脚が四本生えた巨大なナメクジが、大きな口を開けて走ってくるのが見えてきた。
『わあああ! 巨大ナメクジが追ってくる!』
『ウソだろう!』驚くティスが振り返ると、凄まじいスピードで走ってくる巨大ナメクジを確認して『なんだ、あれ! 戦闘機より怖いぞ!』ジェシーの腕を離して、爆走しはじめる。
『どうして置いてこうとするんですか! ティスが「螺旋の迷路」を進んだんじゃないですか! 責任取って退治してくださいよ!』ティスを追い抜く勢いで走るジェシー。『追いつかれたらのみ込まれますよ!』
『ジェシー! 俺の前を走るんじゃない!』横に並ぶと『だったらもっと早く走ってください! 追いつかれるじゃないですか!』
どこをどう走ったのかわからなくなってきたころ、ふと足元を見ると、ジェシーが行こうと指をさした獣道を奥へ走っていた。
『ジェシー! 獣道はダメだと言っただろう!』
『なに言ってんですか?』
『だから、獣道はダメだって!』前方に続く獣道を指すと『ティスがこっちに走ってきたんじゃないですか! 戻れと言って戻ったんだから、戻りすぎたんですよ!』
相変わらず後ろからドスドスドスッと、大きな音が聞こえてくるが……
『あれ?』ふと違和感に気付くジェシーが振り返ると、確かに四本脚の巨大ナメクジが追ってきてビビるが『ティス』声を掛けると『二手に分かれましょう』
『俺に囮になれと言うのか!』
『そうです』
『はあ? なに即答してんだよ! 俺がナメクジに喰われてもいいと言うのか!』
『きっと食われません』
『どうして!』
『それをこれから確認するんです』と言って、ジェシーが左側の木の幹の陰に隠れると、巨大ナメクジは、止まることなくティスを追いかけていく。
『コラ―――――ッ、ジェシ――――――――――ッ』叫ぶティスの声が小さくなっていく。
その後、巨大ナメクジのドスドスという足音も消えて元の静かな森に戻ると、ジェシーは近くにある切り株に座って息を整え、落ち着くと『喉が渇きましたね。水が飲みたいですが、湧き水も小川もないみたいなので、諦めますか』立ち上がると、走ってきた道を歩いて戻っていく。
最初にいた赤い花が咲いている場所を通り過ぎ、ティスに戻れと言われた場所まで進んでいくと、一旦立ち止まる。
『この先ですか』ジェシーは右手を前に出し、見えない壁を触るかのようにして進んでいくと、コンッ。なにか硬いものに当たる。
『やっぱり。ここが「螺旋の迷路」の境界線ですね』ニヤッと笑って『早く出口を見つけてティスを迎えにいかないと、使いものにならない状態になってしまうかもしれませんね』




