10-1 結界からの脱出
『それで、これからどうする? いつまでもここに居られないからな』
現在、広大な森の東側にいるだろうという漠然とした感じだが、自力で結界を破るか、掛けた者を見つけ、解除させる以外に手立てがなさそうである。
『ティスはどうしようと考えてますか?』
『俺か?』
『ここは森の中です。「土の貴族」であるティスのほうが、僕より対応する術を持ってるんじゃないですか?』
『ただの森の中だったらな。さっきも言ったが、ここは「螺旋の迷路」の中だ。下手に動くとこれと同じ赤い花が増殖して、挙句、巨大なナメクジと戦う羽目になるんだろう?』
そう言われてジェシーは渋い顔をすると『まあ、そうなりますね……』ティスの目線の先に咲いている赤い花を見る。
『なにが、「まあ、そうなりますね」だよ。ジェシーは、と言うより「水の貴族」のトップクラスは、各貴族が持つ結界を全部把握してんだろう?』
『まあ、シークレット事項の一つですけど』
『そうなのか』
『ティスだって、「土の貴族」のシークレット事項があるでしょう?』
『まあな』
『それにしても、あのお嬢様を一人残してきたのか気になります』
『心配する必要ない。俺たちの偽物でも見繕って、例のなんとかって果物を探しにいってるかもしれないからな』
『ああ、それは考えられますね。もしかしたら、僕たちが罠にかからなくても、途中で入れ替えられてたかもしれないですね』
『あり得る。あのお嬢様ならやりかねない』
『まあ、目標のフルーツはジュリアスが採りにいってるそうなので、僕たちは、結界の中に隠れてる者を確認をして、僕たち側の者だったら保護して、敵側であれば、また結界に閉じ込めればいいんです』
『確認しに行くには、この結界から抜け出さないといけないんだぞ』
『そうなんですよね。確認しに行く僕たちが結界に捕まってるなんて、本末転倒です』
『まさか、二重に結界が張ってあるとはまったく思わなかったから、やられたってやつだな』
『ティス。今、ふと思ったんですが、こんな作戦は可能ですか?』
『なんだよ』ジェシーの話を聞くと『まあ、俺もその手しかないかな、とは思ってた』
『じゃあ可能なんですね!』
『試したことがないから「わからない」としか言えないが、試してみる価値はあると思う』
『では、その場所を探しましょうか』ジェシーが立ち上がると『目印を付けとけよ。巨大ナメクジが出てきたとき、逃げられるようにしとかないといけないからな』
『ナメクジに遭遇したら、逃げられませんよ』
『なんで? マッハで動くのか?』
『戦闘機じゃないです』冷たく言い返すと『刑事じゃなくて、お笑い芸人のほうが性に合ってませんか?』
『やっぱそう思う? 同僚にもよく言われるんだよ』
『そうなんですね。今からでも遅くないので、ここから出たら転職したほうがいいですよ』




