8-3 ジュリアスの推理
なるべく音を立てずにゆっくりと森の北側へ移動すると、湿地帯に小さい浮島がいくつもあり、対岸まで渡ることができるので、ジュリアスは一旦フルーツを探すことを諦め、対岸へ渡って様子を見ることにした。
『「彷徨う影狼」の結界に捕まったら、自力で破るか助けてもらえるまで、ずっと移動する結界と一緒に、森の中を彷徨ってなければならないですからね』
浮島には自分より背の高い草が生えているので、フロス アクアエたちに見つからないように注意しつつ、なるべく音を立てずに、また水面に波紋を広げながら向かい岸まで行くと、草原をかき分けて、森の北側と湿地帯が一望できる場所へ移動する。
『どうやら、誰にも見つからずに移動できたみたいですね』
しばらく様子を見ていたが、追手もフロス アクアエたちも現れないので、そこに腰を下ろす。
『この状況をショウに知らせて、他のみんなと情報を共有しないと』
バッグからタブレットを取りだして電源を入れるが、今の場所が圏外になっていた。
『ここが圏外?』あたりを見回すが、自分が今いる場所は広い草原で、建物らしきものは見えない。逆に、目の前には広い湿地帯と、その奥に広大な森があり、右手、西側の奥には南北に延びる道路が見える。
反対の東側には、森の西側から続く湿地帯が、車を停めてきた町の建物近くまで続いている。
『電波障害になるものがないのに、どうして圏外なんでしょうか? そして、この場所よりも障害にあいそうな未開拓に近い森の西端は、電波が届いてる……もしかして、この場所が特殊なのではなく、森のあの西端の一角だけが特殊で、あそこにだけ電波が来てるとしたら?』
しかし、あの場所には「風の貴族」の「彷徨う影狼」らしき結界が巡回しているらしい。
『ますますあの場所が怪しいですね。もしかしたら、誰か、あそこから出入りしているかもしれません』ジュリアスはもう一度森の西端へ行って調べようか考えるが、ショウから無茶なことは絶対しないよう、きつく言われているので『今回は一旦車まで引き上げて、作戦を練り直しましょうか』
タブレットをバッグにしまうと、森の北側に広がる湿地帯の水の上を、東に向かってまたしても波紋を広げながら音を立てずに走り抜け、住宅があるところまで移動すると、乗ってきた車が置いてある駐車場へ歩いていく。
『参りましたね。まさか、こんなことになるとは思ってもみませんでした』
少し息が上がってきたころに車を停めていた駐車場に着き、運転席に座ると、後部座席に置いてあるクーラーボックスの中からミネラルウォーターを取りだし、一気に飲んで一息つくと『ショウに連絡しないといけませんね』バッグから携帯を取りだすと、電話を掛ける。




