5-2 「螺旋の迷路」
『……それって……』ジェシーは考えると『一向に近づかない森は……フェイク』
『そういうことだ、というより、そこから「螺旋の迷路」に入ったということだな』
『僕たちは、すでに例の森の中に入ってる』
『そうなるな』
『いつ、「螺旋の迷路」に入ったと気付いたんですか?』
『あのパン屋と同じ、同じ犬が何回も出てきたことに気づいたときだ』
『犬ですか?』
『ああ、同じポメラニアンが何匹もいたんだ』
『どうして同じだとわかったんですか?』
『わからない奴はいないと思うぞ。同じひまわりの帽子をかぶってたからな』
『ひまわりの帽子?』首を傾げるので『ああ、こう、顔の周りに黄色い花びらが付いたやつ』手で帽子を再現すると『……何匹出てきたんですか?』呆れるジェシー。
『三、いや四匹だったかな?』
『じゃあ、あのまま進んでたら、巨大ナメクジが出てきて、みんな食べられてたかもしれないんですか?』
『向こうに付いてる奴は助かったかもしれないけどな』
『やっぱり、エントリー者の中に、向こうに付いてる者がいますか』
『ジェシーも気付いてたんだろう? お嬢様をカフェで休ませるために、最初に声を掛けたんだから』
『まあ。スタートしてから、ずっと僕たちの後ろを走ってるのが気になったので』
『それで、お嬢様と一緒に休ませて大丈夫か?』
『大丈夫じゃないですか? お嬢様も向こうに付いてるうちの一名ですから』
『まあな』納得と頷く。
『それで、とても森の中にいると思えないんですが』周りを見ると『これからどうしますか?』
『それなんだが、選択は二つ。結界をぶち破って先に進むか、お嬢様たちが休んでるカフェに戻って、向こうがしびれを切らすまで、まったり休んでるか』
『休んでたら優勝できませんよ』
『そもそもイベントが中止になるだろう? 俺たちが動かないんだから』
『それはそうですが、そうなると、ショウから言われた計画が進まなくなりますよ』
『いいじゃねえか。人間が考えた計画なんか、潰れたって問題ない』
『わかりました。では、ここでチームは解散しましょう』
『どうして!』
『僕はショウを信じてますから、相反するティスとは行動を共にできません。従って、チームを解散します』
『失格になるぞ』
『問題ないです。例の花を取ってくればなんとかなるでしょうから』
『無理だと思うぞ』
『やってみなければ、わかりません』
『そもそも、その花を取りに行くには、「螺旋の迷路」を解かないといけないんだぞ』
『そうですね』
『そうですねって、簡単に言うが、できるのか?』
『できないことはないと思います』
『強気だな。結界を解いたことがあるのか?』
『何回か』
『そうはいっても、「螺旋の迷路」は「風の貴族」のトップが掛ける結界だぞ』
『僕も「水の貴族」のトップですから、本気でやれば、なんとかなると思います』
『……そうだった』
『それでは、お疲れ様でした』と言うとジェシーは道の先にある、何回も出てきていい匂いをさせているパン屋のところまで行き、ドアを開けて中に入ると、ティスが慌てて付いてくる。
『ジェシー、無茶するな!』
『邪魔しないでください!』と言って深呼吸すると、両手の平を顔の前にかざし
『我が水の流れ、堰き止めし「風の蓋」を開けよ!』
今度は両腕を前に伸ばして掌を前方に向けると、ジェシーの両手から大量の水が噴きだし、店の奥の作業部屋が見えるように張られているガラスを突き破る。




