5-1 「螺旋の迷路」
『どういうことですか?』困惑するジェシー。
『俺にもさっぱりわからないが、「風の貴族」の爵位を持つ者のが関わってることは、わかる』
『誰かが僕たちを見てることはわかってましたが、この視線が「風の貴族」の誰かの可能性があるということですね?』
『ぶっちゃけそうだ』
『……それで、これからどうしますか?』
『ジェシーは「螺旋の迷路」がどんなものか、知ってるか?』
『そうですね』少しの間、記憶をさかのぼると『昔、ファルークから聞いたことがあります。「螺旋の迷路」は、危険な者を閉じ込めておく檻としても使える結界で、進んだ先にいるのは……巨大なナメクジのような軟体動物で、どんなものでも食べて、消化してしまう……誰かが僕たちをナメクジに食べさせようとしてるんですか!』
『「風の貴族」トップのファルークがそう言ってるんだったら、そうなんだろうな』まあまあと宥めると『ティスはどんなものか、知らなかったんですか?』
『知ってるから、こうやって途中で止まったんじゃねえか』
『ああ、そうだったんですね』
『そうだったんだよ』
『まだ視線が来ますね』
『一つ増えてねえか?』
『そうですか? 最初から複数いたので、一名増えてもわからないです』
『……そうか』
『それで、これからどうしますか?』
『それを今、考えてる』腕を組んで、進行方向を向くティス。
『そういえば、お嬢様たちはどうしますか? あのままずっと休憩してるとは思えませんよ』
『そんなことないだろう。俺たちをおびき寄せるために、あのカフェの幻影を作ったんだろうからな』
『どうしてそんな重要なことを黙ってたんですか!』渾身の大声で抗議すると『心配するな。わかってて敵の手中にお嬢様たちを渡すほど、俺は優しくねえよ』
『……は?』
『お嬢様たちの周りに「森林の迷宮」を張ってきたから、敵からは見えない。俺たちが戻るまで、まったりと休んでるよ』
『本当ですか? いつの間に』
『敵を騙すにはァ、見方からってェ、言うんだろうゥ?』
『その言い方、誰の真似ですか?』冷たい視線を向けて、怪訝そうに聞くと『誰だったかな? コント番組に出てたお笑いコンビだったが、名前は忘れた』
『今後、やめたほうがいいですよ。忠告しておきます』
『そんなにつまんなかったか?』
『いえ。バカにされたと思われるからです』冷めた目で見るので『……わかった』素直に頷く。
『あれ、ちょっと待ってください』ふと、ジェシーはあることに気づき『なぜ「森林の迷宮」を張ったんですか? というより、どうして張れたんですか? ここは町中ですよ? 「森林の迷宮」は森の中じゃないと張れないんじゃないんですか?』
『そうだよ』なに言ってんだ? という顔をしてジェシーを見るので『じゃあ、なんで……エエッ!』
『なんだ、気付かなかったのか?』
『だって、だって……』
『俺たちはどこにいるんだよ』
『どこって』周りを見ると『だから、町中じゃ……』
『違う!「螺旋の迷路」の結界の中だろう!』




