56-2 レンの存在
「レンにラルと一緒にいることを話していいなら、奴がラルのことをどう思ってるのか聞いてもいいけど、どうする?」
「聞かなくていい」
「わかった」
「聞かなくていい」
「わかったよ。偶然、会うときまで黙ってるよ」
ラルはゆっくり温くなったお茶を飲むと「それにしても、今、彼はメルクリオスにいるんでしょう? どうやって入国したんだろう?
オルトのルナノヴァ国に、南側のナスコットが納めるメルクリオス国。
それと、ルナノヴァの北側、コルチネスが治めるウルサ マーニャ国は、この大陸の中でも特に危険で、胡散臭い領主が君臨してると言われてて、もちろん、入国だってすごく厳しいと言われてるのに、どんな手で入国したんだろう?」
「それを言ったら、ルナノヴァだって、入国が厳しいと言われてるわりに、それほど難しいとは思えないじゃないか」
「まあ、それは私も思った」
「噂だけが独り歩きしてる可能性だってあるからな」
「それはそうだけど、実際、この三国に調査に行った組織のメンバーは、潜入するのがすごく大変だったって、アディが前に言ってたでしょう?」
「まあな。メルクリオスの領主ナスコットは、オルトの領地を、北側の領主コルチネスと一緒に守ってるという噂まであるくらいだから、それぞれの軍事力はかなりのものなんだろう」
「レンたちは、そこでどんなことを調べてるのか、もらえる情報があったらほしいね」
「それはそうだが、こっちもそれなりの情報を提供しないといけないからな」
「ルナノヴァのことでいいんじゃない? わかってることを教えてあげればいいと思うけど」
「ティスが所属署に報告してるだろうから、二重になるだろうな」
「ああ、そうだった。こうなると、同じ機関にいるのは面倒」
「なに言ってんだよ。ティスは昔の茶飲み友達だろう?」
「そうだけど、レンとブッキングしてるじゃん」
「だから、他の情報を渡して、そっちを調べてもらえばいいんだよ」
「禁足地の情報を渡すの!」
「まさか」
「だよね。よかった」ホッとすると「じゃあ、どんな情報を渡すの?」
「刑事だからこそ調べることができる案件。グランチェスト家とオルトとの繋がり」
「ああ、確かに」上から目線で見下ろすフレンティーヌの顔を思い出すラル。「家族旅行だと言って、目的は年に一度のルナノヴァのフルーツフェスティバルに行くことで、そこでなにか予定されてるのが見え見えだったし」
「俺もグランチェストに関して色々調べたけど、途中から危ないウイルスや、隠し地雷原付きでパスワード付きのサイトとかあって、腹が立つけど絶対なにか隠してるから、暴いてほしい」
「できるの?」
「できるだろう?」
「だって、ショウが突破できなかったんだよ。そんなところを突破できる人が、刑事機構にいるの?」
「いるだろうな。ハッカーを元ハッカーと戦わせたりするから」
「そういえば、そんなことを聞いたことある。毒には毒で対抗するって?」
「まあ、そうだな」




