49-2 夢中になれるものは必要
翌日、さすがに昨夜、二時間半も映画の主人公を叱咤激励しつつ、一緒に未開のジャングルを進んでいたので、ラルの声はしゃがれてガラガラになっていた。
顔を洗ってテーブルに座ると「すごい声になっちゃった」
「別人みたいなハスキーボイスだな」朝食を作りながら、声を聞いて驚くと「ハスキーというより、ガラの悪いおじさんみたい」
「アハハハハハッ! ガラの悪いおじさんか!」ショウが大笑いするので「笑いごとじゃないよ! 明日、定期検診なのに、このままだと……また先生のお叱りが……」怒った顔を思い出して絶望するので、苦笑するショウが「怒られることはないから、心配するな。声もすぐ戻る」
「……どうして?」意外なことを言われ、理由を聞くと「思いっきり声を出したから、今日も気分がいいだろう?」
「なんでわかるの? 実は、そうなの。いつも朝起きると頭が重くてダルいんだけど、昨日からスッキリしてて、体が軽いっていうか、気分が軽いっていうか、すごい重力のある場所から出られたみたいに軽いの」
「いいことじゃないか。だったら、ちゃんと食べて薬を飲んで睡眠を取れば、声なんかすぐに元に戻る」
「……そうかな」
ショウに言われたとおり、出された朝食を完食して薬を飲み、十分な睡眠を取ると、午後三時のティータイムのときには、ガラガラ声が治っていた。
「声が元に戻ってる。良かった」ホッとすると「今夜は叫ばないように、楽しく見られるものがいい」
「わかった。あとで調べとくよ」
腕のいいパティシエがいる例のスーパーの洋菓子コーナーで焼き菓子を買っていたので、持ってくると、早速ラルが一枚食べる。
「ビスケットもおいしい!」
「どこで修業したんだろうな。小さな町のスーパーにいるなんて、もったいないよ」
「もっと都会の大きな洋菓子店でじゅうぶんやっていけるのに、どうして行かないんだろう?」
「有名店だと高くて裕福層しか買えないから、それがイヤらしいよ」
「ああ、なるほど。まあ、私たちにとっては、小さな町のスーパーにいてくれてありがとう、だけどね」
その後、夕飯を食べて映画を見る時間になると、ラルの部屋にお茶とお菓子を用意して、ノートPCをセッティングする。
「今夜はなにを見るの?」
「ちょっと待ってろよ」マウスを操作してサイトに入ると「今夜はスパイ映画だ」
昨年ヒットしたスパイ映画をスタートさせると、ラルはあまり気に入らないらしく、あそこが甘いとか、そんなこと普通しないとか、現実的に不可能だと言ってつまらなそうにするので「ラルの体験談を映画にすれば、ヒットするんじゃないか?」
「そんなことしたら、キラのメンバーが全員捕まる」
「それは失礼しました」素直に謝罪して「他になにがあるかな?」いろいろと見ていくと、あるジャンルで手が止まる。「これにするか」
「どんなジャンル?」楽しそうに聞くと「……ホラー」
「却下ああああ!」




