42-2 意外な話
「表の顔の兄は、ビーグル犬のぬいぐるみのコレクターだ。以前飼っていたビーグル犬が亡くなった後、また飼って亡くなるのを見るのが辛いという理由から、亡くならないぬいぐるみを集めるようになったそうだ。そのため、その手の即売会や展示会にお忍びで行ってる」
「裏の顔の弟は、ビクスドールという陶器でできた人形の収集家だ。亡くなった母親が好きだったからだよ。母親のコレクションを引き継いでるんだ」
「そうなのか。では、オークションなどに出品されたら参加するんだろうな」
「稀少なものなら、自ら出向いて競り落とすよ」
「二人とも、意外な物のコレクターだったのよね」思い出して苦笑するラル。
見かけによらないという言葉が合ってると思った事例だった。
「でも、ご老公、大丈夫かしら?」ベッド脇に座っているショウに耳打ちする。「シンシアがお世話になったから、きっと、このことを聞くと心配すると思う」
「そうだな」ショウは頷くと「ご老公の容体はかなり悪いのか?」
「あまり良くないらしい。詳しい状態はオフレコになってるから、本当はどうかわからないけどね」アディはこの情報をあまり信じてないようなニュアンスで話す。
「どこが気に入らないんだ?」ショウが突っ込むと「えっ、いや、別に根拠はないけど……」言葉を濁すので「アディらしくないわよ」
「そうかな?」
「気になることがあるんだろう?」
「実は、容態が良くないというのはフェイクじゃないかと思うんだ」
「フェイクだって? その根拠は?」
「だから、さっきも言ったけど根拠はないんだ」
「勘とか言うわけじゃないだろう? アディのことだから、疑う根拠があるはずだと思うけど」
「相変わらず突っ込んでくるね」なぜか楽しそうに言うので「私たちを試してるの?」気付くラルが言い返すと「そうじゃないけど。理由と言えるかわからない程度だけど、隣の領主の双子が、一緒に調査に向かったということが気になるんだ」
「どうして?」
「あの二人は表と裏。一緒に動いたら意味がないだろう?」
「アッ」
「だから、調査内容を知りたくて、タキたちに行ってもらったんだ」
「なるほど。なにか出てきたのか、新しく情報が入ったのか。気になるね」
「情報が入ったら連絡するよ。だから、そっちも進展があったら連絡してほしい」
「シルビアに伝えておくよ」
その後、通信を切ると「なかなか一つのことに集中させてもらえないな」
「ご老公のことは、エミアに頼んで見にいってもらったほうがいいね」
「そうだな。しかし、シンシアの父親と繋がりがあるんだろう? だったら、ウィルシーたちに行ってもらうのは、禁足地のほうがいいか」
「そうだね。夕食後、頼みに行かなきゃ」
「ああ、俺が行ってくる」
「でも」
「ラルは、体調を戻すことが最優先だろう?」
「……そうだけど」
「大人しく待ってなさい」




