1 共同任務 開始
次の日の午前九時。
目覚ましのアラームに起されてショウが部屋から出てると「おはよう」キラが居間で紅茶を飲んでいた。
「なんだ、もう起きてたのか」
「昨日、中途半端な時間まで寝てたから、早く目が覚めてしまったの」
「なるほど。で、具合はどうだ?」
「昨日よりはマシよ」
「そうか。顔洗ってくる。飯食いに行こう」タオルを持って洗面所へ向かう。
「おはよう」ショウが声を掛けると「あら、いらっしゃい」
いつものレストラン。
例のウエイトレスがテーブルを拭いている。
「モーニングセット二つね」と言って近くのテーブルに座ると「はい」と答えて奥へいく。
「そういえば、グループから報告きたか?」向かいに座るキラに聞くと「まだよ。もう少し時間が掛かると思う」
「俺のこと、なんて言ってた?」
「そこまで協力すると言ってくれてるんだったら、断るのは失礼だって」
「そうか」ホッと胸を撫で下ろす。
「ごめんなさい。ここのところイライラしてて、きつく当たってしまったわ」
「精神的に余裕がなかったんだ。気にするな」
そこへ「失礼します」例のウエイトレスが二人の朝食を持ってきた。
「仲直りしたんですね?」
「ああ。昨日言われたことが効いたよ」
「お騒がせしました」頭を下げると「いえ、せっかくの休暇を台無しにしたらもったいないと思っただけです」
「今日は、ゆっくりとここの景色を楽しみます」とキラが言うとウエイトレスは笑顔で「是非そうしてください!」上機嫌で戻っていく。
二人は時間を掛けて朝食を食べると、レストランから出た。
帰り道「今日はゆっくりできるんだろう?」隣を歩くキラに聞くと「そうね。連絡が来るまで動けないから」
「じゃあ、今日はコテージでノンビリするか」
「ショウはどこかに出掛けてきたら?」
「いいよ。一人で行っても楽しくない」
コテージに戻るとショウは居間で本を読み、キラは自室で仮眠を取り、体を休めた。
次の日、いつものようにレストランへ行って朝食を取り、お昼用のサンドイッチを作ってもらってコテージに戻ると、グループから送られてきた報告書のデータを見て、今後の作戦を立てる。
「基点となるホテルは手配してくれたわ」ノートパソコンに表示されているデータを見せると「ちょっと待て。次のターゲットは老師なのか?」
「そうらしいわね」
「最近姿を見せないと思ったら、こんな所にいたのか」
「大分前から留まってるみたいよ」
「もっと時間を掛けて、綿密に計画を立てたほうがいい。お前だって老師の噂は耳にしてるだろう? 金融業界で彼の名を知らない者はいないほどの人物だぞ。しかも、世界各国の要人とも繋がりがある金融界のドンだ」
「もともと彼のことは調査してたのよ。綿密に調べてたから早く資料が送られてきたの」
「目を付けてたのか。まあそうだろうな。それにしても、グループの情報網はすごいな。感心するよ。で、どうやって潜入するんだ?」
「アレンのところから彼らを盗んだのは私たちだと言って、堂々と正面から乗り込むわ」
「なんだって?」
「報告書を見ると彼らは争ってたらしいから、この手は効くと思うの」
「対立してる相手がこんな近くにいると、お二方は知ってたのかな?」
「どうやら、二人がここに来たのがほぼ同時期らしいのよ。
それからずっと動いてないわ。
そして、二人が住んでるところに彼らが幽閉されてた。
こんな近くに、お互い彼らを幽閉してると思わなかったでしょうから、わかったときは驚いたでしょうね。
だからアレンはここから動かず、老師の出方を見ながら、どうしようか考えてたんだと思うわ。
でなければ、仕事そっちのけで、こんな小さな島に長期間留まってないもの」
「ということは、以前からお互い探りを入れてて、それぞれの監禁場所がわかったのが同時期だったということか」
「そんなところね。この二人、頭の中は一緒らしいわ。同じような立地条件のところを幽閉場所にしてるんだもの」
「考え方が同じなら取る行動が似てて当然だな。すると、他のところでも鉢合わせになったことがあっただろう」
「正解。仕事から趣味から、好みのお酒まで一緒よ。それと、女性の好みもね」
「それはすごいな。年齢差が爺さんと孫くらい違うのに、何もかも一緒なんて驚きだな。アレンが老けてるのか老師が若作りしてるのか、どっちだろうな」
「どうでしょうね。でも、これで、どういう人物に変装したらいいのかわかるわ」
「それって、またアレン好みの女性に変装するってことか?」
「そうよ。彼は気の強い女性がお好みだったわ。だから、今回もでかい態度で堂々と行けばいいのよ」
「もう作戦ができてるようだな。続きを聞かせてくれ」




