23-3 慣れない買いもの
「いいじゃん。似合うよ。腕まわりとかきつくないか?」
「うん、 大丈夫。きつくない!」腕をグルグル回す。
「ちょっと髪をほどいてみろよ」
「ほどくの?」
「いつも後ろでまとめて編み込みしてるから、たまには違う髪型にしてみろよ」
「……編み込むの大変なんだよ」と言いつつほどいていくと、モサッとするので「バレッタで留めたほうがいいかな? バレッタ……どこやったかな?」ポーチの中やバッグのポケットを探しながら「髪を洗うときしか使わないから……」
一緒に探しているショウが「サイドテーブルとか、ベッド脇に置いてないか?」と言うと「アッ、そうだ」ベッド脇に置いてあるサイドテーブルの一番上の引き出しを開け「あった。昨日、ハンドクリームぬったときに、一緒に入れちゃったんだ」髪を後ろで留めると「こんな感じ?」編み込んでいたので軽くウェーブが掛かっている。
「ああ、そっちのほうがいいよ。かわいいじゃん」
「かわいい?」
「ああ。髪を束ねてたときより明るく見える。今のほうがかわいいよ」
「かわいい!」
「髪型を変えるだけで雰囲気がガラッと変わるんだな。ワンピースを着て日傘をさしたら、いいところのお嬢様に見える。というか、お嬢様なんだよな」
「かわいい?」笑顔でもう一度聞いてくるので「ああ、かわいいよ。せっかくだから、洗面所へ行って鏡を見てこいよ」
「うん!」
「走るなよ」
「あっ、気を付ける」
「どうせなら全部着てみろよ。気に入らなかったら交換すると言ってくれてたから」紙袋を渡すと「わかった」笑顔で受け取るとゆっくり歩いていくが、後ろ姿が浮かれているように見える。
「まったく、お前の仕草が一番かわいいよ」
(服を買ってやっただけであんな笑顔が見られるんだったら、もっと早く買ってやればよかった。とにかく、いろいろ選んでくれた親切な店員さんに感謝しないとな)
「お勧めはこちらの棚にあるカットソーです。今の流行りなんですよ」
店頭に「新作」とポップが貼られている棚を指すので「ああ、きれいな色だね」
「彼女さんのサイズがいくつか、おわかりになりますか?」
「サイズか……たぶんSサイズかな?」
「小柄な方なんですね。では、こちらはいかがでしょうか?」
ベビーピンクで前の部分が丸くカットされたかわいい服を広げると「形はいいんだけど、ちょっと小さいかな? アイツ、痩せてるわりに胸があるから、これだと胸周りが少しきついかもしれない」
「あら、そうなんですか? 羨ましい。いえ、当店では特殊サイズの服もご用意していますから、そちらでお探ししましょうか」
今度はお店の奥の棚へ歩いていく。
壁際にある棚の前で止まると「こちらがバストが大きい方用のカットソーになります」
奥にはトールやショートサイズのワンピースが掛かっていたり、大柄や小柄用など、特徴のある人のためのコーナーになっている。
「色はさっきのと同じなんだ」
「はい。サイズ違いなだけで、形も色も同じように作られてます」
「みんな同じようにオシャレできるようになってるんだ。このくらいバリエーションがあるといいね」
「ありがとうございます。お客様からの声を反映させていただいてます」そう言いながら、先ほどと同じベビーピンクのカットソーを広げるので「このくらいなら大丈夫かな?」
「スタイルがいい彼女さんなんですね。羨ましい」




